TRIGGERさん、記者が彼らの名前を呼び、「対戦相手に言いたいことは?」マイクを向ける。三人は顔を見合わせて同時に笑い、リーダーの八乙女さんがグループを代表して口を開いた。その場の全員が、何が語られるのかに注目する。それはもちろん、私も例外ではなくて──。
「ん……」
机の上でスマホが震えるのを、手探りで止めた。仮眠の時間は終わりだ。随分くっきりした手触りの夢だった。TRIGGERの三人が、たぶんあれはブラホワの会場にいた。去年見たホールと同じような内装だったと思う。対戦相手と呼ばれてカメラが向けられたのは、顔ははっきり見えなかったけれど大所帯だったと思う。
大きく腕を伸ばして上体を反らすと、すっかり固まった背中がバキバキと音を立てる。うわ、この歳でこれはどうなの。そう思わずにはいられない硬質な音に混じって、下の方で軽い音がした。
「あれ……」
寒くなってきた時期には手離せないブランケットが、椅子の背もたれの後ろに落ちていた。たしか膝に掛けていた気がするけれど、もしかして誰かが肩に掛けてくれたのだろうか。
「あら、お疲れ様。まだ残ってたのね」
足元のそれを拾って顔を上げると、姉鷺さんが立っていた。私よりずっと忙しいだろう姉鷺さんは、疲れなど感じさせない顔でバリバリ仕事をしている。すごい人だ。
「何だかニコニコしてるじゃない。いい夢でも見たの?」
服のシワ、頬についてるわよ、薄くだけど。そう言われて慌てて頬を隠す。怒られることはないだろうけれど恥ずかしい。
「たぶん……? すみません、すぐ仕事に戻ります」
「この時期は忙しいものねえ。お肌に毒だし、さっさと終わらせて帰りましょ」
「はい」
姉鷺さんに促され、再びデスクに向かった。脳裏に過ぎるのは夢で見た光景。彼らが輝く時のための私たちの働きは、きっと夜景のひとつになって、いつかの未来を照らし出す。そう思う時、私はこの仕事を楽しいと感じるのだ。誰に知られることもなく、ひっそりと抱えた夢が夜のあわいに溶けていくようだった。