*4周年スト微ネタバレ
*夢主=了さんの姪でŹOOĻのマネージャー
*月雲家の過去を超捏造してます


 不意に、そういえばさ、と声がして夏休みの宿題を片付けていた手を止めた。苦手な数学で、いまひとつ集中できていなかったからちょうどいい。
 すぐ側で携帯を弄っていた悠が、声の主だ。四人それぞれ仕事に出ていて、悠と同行していた私だけが先に帰ってきたから、今この部屋には私と悠しかいない。

「ナマエは四年前、何してたの?」
「四年前?」
「この前、了さんに聞かれたじゃん。実はオレたちが運命的な出会いをしてたってやつ。結局了さんの作り話だったけど、ナマエはどうしてたのかと思って」
「四年前かあ……」

 何か特別なこと、あったかな。うーんと唸りながら、握っていたシャーペンをノートの上に転がして、あの頃を頭の中で思い浮かべる。四年前というと、中学生の頃だ。
 あの時はまだパパがツクモプロの社長で、私は普通に暮らしていた。けれど、今思うと会社の経営はあまりうまくいっていなかったのだと思う。パパがやたらピリピリしている日もそれなりにあったし、基本的にパパはいつでも仕事ばかりだった。別に授業参観や運動会には来てくれなくてもいいけれど、長期休みはどこかに連れて行ってくれたらいいのに、と思っていたっけ。

「……あ。四年前の夏休み、了さんに遊びに連れて行ってもらったことあるよ」
「え、了さんに……?」
「うん。近所のバザーみたいなやつだけどね。本当はパパとママと遊園地に行くはずだったんだけど、パパがやっぱりダメだって言って、私がすごく拗ねたの。そうしたら了さんが私を連れ出して、色々買ってくれたんだ。アイスとか、変なおもちゃとか。あとは、バルーンも買ってくれた」

 思い出しながら話していたら、たまらなく懐かしくなる。夏の暑い日で、太陽もかんかんに照っていたから、買ってもらったバニラアイスはみるみる溶けてしまった。慌てて食べる私を、了さんはにこにこしながら眺めていたっけ。
 四年前なんてほんの少し前の話のはずなのに、なぜか遠い昔のように感じてしまう。歳を取るとそう感じるとは言うけれど、私はまだ高校生だ。
 けれどまあ、たしかに、今は会社の社長が了さんになって、私もバイトとはいえ会社で働いていて、アイドルのマネージャーなんてやっている。たった四年の間に色々なことが変わったなあ、なんて思った。あの頃のことが昔のように感じるのは、仕方のないことなのかもしれない。

「へえ。ナマエと了さんって、昔から仲良かったんだ」
「あはは、全然。何で急に出かけようとか言い出したのかわからなくて『は?』とか言っちゃったくらいには、仲良くなかったし」
「ふーん……」

 しばらくの間を置いて、悠が「でもさ」と続けた。

「了さんなりに、ナマエのこと励まそうとしてたんじゃん? ナマエは出かけんの楽しみにしてたんでしょ」
「どうだろ。買ってくれたバルーン、帰ってすぐ『しぼんだところなんて可哀想で見たくないよね!』とか言いながら針刺されて割られたし。面白がられてたのかも、単なる暇つぶしっていうか」
「何それ最悪……。やっぱさっきの取り消し」
「あはは。でも、本当に励まそうとしてくれてたのかもね。ああいうことされても、何か了さんのことって憎めないし」

 変なおもちゃも全部取っといてあるんだよ、と言うと、悠は「ふーん」とだけ返してきた。釈然とはしていなさそうだ。

「……その変なおもちゃって、何買ってもらったの?」
「えっ、関節が動く恐竜の人形とか、おままごとで使う野菜とか……? あと馬と鹿のフィギュアのセットとか。ちゃんと対になってるの」
「本当に変なのばっか……」

 呆れたような顔をした悠が「あ、ゲームのライフ回復した」と次の瞬間には楽しそうな表情に変わっていた。悠の暇つぶしは終わって、もうゲームをする時間らしい。私も宿題やらないとな。テキストに目を落とす。どこまでやったっけ。というか悠も宿題、やらないといけないんじゃない? 最終日にやるタイプなのかもしれないけれど。
 ──今日帰ったら、あの時買ってもらったおもちゃ、久しぶりに引っ張り出してみようかな。やっぱり苦手な数学には集中できなくて、そんなことばかり考えていた。
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