つまらない授業に、全く耳に入ってこない先生の声。
自然と込み上げてくる欠伸を噛み殺し、開きっぱなしの窓の外を眺めた。
今にも泣き出しそうな雲から、ひっそりと覗く太陽。
ふわりと明るい髪を撫でる風に、微かな太陽の光が降り注ぐ。まるで光合成でもしている気分になりながらも、重たくなる瞼を必死に持ち上げる。
それでも時々頭がカクンカクンと船を漕ぐものだから、きっと先生は気付いていると思うが、この眠気にそんな事を気遣う余裕もなくて。
レンは腕を枕にするように机にうつ伏せになり、そっと瞼を閉じて。直ぐに開いた。
それは聞き慣れた、そしてとても綺麗な声が聞こえてきたから。顔を上げてその声の聞こえる方へと目を向ければ、それは案の定リンだった。

リンとは幼なじみで、小さい頃から仲が良くいつも一緒に居る事が多かった。それは今となっても変わらず。本当の家族のように毎日一緒に登校したり、昼休みに一緒に昼食を食べたり、時々晩御飯もお互い家に招かれて一緒に食べたりもしている。
一緒に居てとても楽しいし嬉しいのだが、少々不満もある。
レンは家族の一員のような彼女の事を家族だなんて思った事はなく。物心が付いた時には、彼女の事を異性として好意を向けていた。
なので彼女のその無防備さが、自分を一人の男として見てくれていないのだと嫌でも自覚してしまい虚しさが自分を包んだ。
何度も忘れようとしたこの想いは、消える事のなく。それでも彼女から離れるだなんて勇気も無く。
(いつになったら楽になれんのかな)

教科書に並んだ文字列を一つ一つ丁寧に読んでいくリンの声は、とても綺麗で落ち着く。自分の斜め前の席である彼女のアングルの絶妙さに、どきり。と胸が跳ねる。
それでも彼女から目を離す事ができなくて。
教科書に並べられた文字列を噛まずに読めたリンが、ちらりとこちらに目を向けてはにかむものだから。火照っていく頬の熱が止まらなくて、まるでそれを誤魔化すように顔を机にうつ伏せた。


授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
そう言えばさっきの授業が最後だっけ、なんて。欠伸を零しながらも帰り支度をするクラスメート達を眺めながら、ぼんやりと考える。
すると突然視界いっぱいに白が埋め尽くした。
一瞬理解出来なかったが、それがプリントである事に気付き、捲り上げれば。そこには彼女の笑顔が咲いていた。

「レン、今日あたしん家で一緒にご飯食べよー!」
「…ん。ちょうど今日母さん達遅いし、良いよ」
「やったー!じゃあ一緒にご飯作ろうね」

可愛いな、なんて頭の片隅で思いながらも帰り支度を始める。が、疑問が浮かびその手を止めて、再びリンに顔を向ければ。

「一緒に作ろう…って、お前ん家の親は…?」
「今日帰りが遅いの。だから一人じゃ寂しいなって思って」

だめ?なんて不安そうに小首を傾げるものだから、その仕草にドキドキしながらもノーなんて言えず。
仕方ないな、と可愛くない返事を返しながらも内心では気が気でなかった。
大体親が居ない時に男を家に招くとはどういう事なんだ。誘っているのか、なんて一瞬期待しながらも、無邪気に笑う彼女に一緒の期待など脆くも崩れ去った。
頭を抱えながらも、帰り支度を早々に済ませ席を立つ。そしてリンに帰る事を促せば、嬉しそうについて来た。
玄関まで他愛のない会話を繰り返しながらも至福の時を過ごしていれば、ザーザーと地面を打つ雨が目に入った。先程まで今にも泣き出しそうな空をしていたし、今日は夕方頃から雨が降ると天気予報でも言っていたから、それ程驚きもせず靴を履き替えて傘立てに入れておいたマイ傘を手に取る。
リンも傘を持って来ており、相合い傘が出来ないな。と、少し残念に思うが傘を持ってきた事を誇らしげに微笑む彼女を見て、そんな事などどうでもよくなった。

ザーザーと降る雨。傘をさしているので濡れはしないが、傘と傘が幅を作ってリンといつもより距離が出来てしまう。
それが何だかもどかしくて、難痒くて。
手を繋ぎたい。そんな言葉を思いながら手を伸ばせば、それを拒むように彼女は早足で前へと走り出す。
一体どうしたんだと思いながら伸ばしかけた行き場のない手を引っ込めれば。
リンは数メートル先で止まり、アスファルトの隅に傘を置いた。そして再びこちらに走ってくる。
あ、危ない。
そう思った矢先に彼女は足を躓かせ、水溜まりにダイブした。
レンは慌てて彼女に近寄り、傘を向けながら大丈夫かと手を差し伸べる。リンはその手を取り、そっとその場に立ち上がった。

「冷たーい!」
「お前なぁ…って!ちょっ」
「ん?どうしたの、レン?」

小さく小首を傾げる彼女の姿に絶句した。
水溜まりにダイブした彼女の制服はびしょびしょに濡れており。夏用の薄い素材で作られたそれは、透けてしまい肌を隠すという本来の役割を果たしていない。
白い服から見える肌色に下着。制服は水に濡れて肌に張り付いており、彼女の細い体のラインが丸見えだ。
好きな人のそんな姿を見てドキドキといつも以上に煩い心臓の音と興奮に、理性をなんとか抑えながらも自分を自分で落ち着かせる。なんという拷問だと、火照る頬を隠すように目を背け。
彼女にそっと自分の着ていた上着を掛けてやる。
するととても嬉しそうに微笑むものだから、レンもつられて微笑んだ。




可愛すぎて反則です




彼女に促され、一つの傘の下で手を繋いでいれば、途中でリンの傘で雨から守られている捨て猫を見つけた。
きっと飼ってあげる事ができないからせめて濡れないように、という彼女の優しさであろう。
リンらしいな、と笑みが零れた。




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レン→(←)リン
レンにもっとムラムラさせたかったです←
リクエストありがとうございました!




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