自然と笑みが零れた事に驚き小さく口元を抑えれば、彼は目を見開きそして再びはにかんだ。
すると彼は思い付いた様に片耳から外しているイヤホンをこちらへと差し出してきた。何だろう、と小首を傾げれば、彼は痺れを切らしたのか。
席から立ち上がり、リンの耳へとそれを当てた。
そこから流れてくるメロディは借りたCDに入っていた、リンのお気に入りの曲。
彼の顔を見れば、彼は悪戯っぽい笑みで、俺のお気に入りの曲なんだと教えてくれた。
そのテンポの良い音楽と、彼の笑顔になぜか胸の中からぐっと涙が込み上げてくる。なぜだか分からないけれど、久しぶりにとても安心出来た、そんな気がした。

そんな時、ガラッ。と大きく教室の扉が開いた。もう他の生徒が登校してくる時間帯になったのかと思ったが、扉の所で立っていた人物に身の毛がよだった。
そこに立っていたのは先程生徒会室に向かった、リンの彼氏である初音ミクオ。
リンはレンから勢いよく離れ、焦点が合わない程動揺する。レンは頭に疑問符を浮かべながらも後を振り向けばリンから離れ、軽く手を上げた。

「よ、クオ。はよー」
「おはよ。レン早いね」
「まーな。ま、これから行くけど」
「はは、また喧嘩?よくするね、そんな面倒な事」

そんな二人の会話に、二人は友達なのかなとか、やっぱり鏡音君は喧嘩とかするんだとか。そんな言葉が頭を横切ったが、今はそれどころではなかった。
どうしよう、男の人と喋っていた所を見られた。どうしよう、男の人と喋っていた所を見られた。
その言葉が頭の中をぐるぐると回り、支配する。
そんな事を考えていれば、レンはこれから喧嘩をする為か教室から出て行こうとしていた。
いかないで。いかないで。一人にしないで。
そんな言葉が喉から出て来なくて、そのまま脳内で響き消えていく。
そして彼は教室から出て行き、大きな音を立てて扉は閉まった。
時計を見れば皆が来るにはまだ時間がある。震える体を抑えながらも、ミクオの方へと顔を向ければ突然頬に痛みが走った。
パチン、と渇いた音が響いた直後、椅子から体を突き飛ばされる。
床に尻もちしたのと同時に、じんじんと痛む頬を抑えれば勢いよく胸倉を掴まれる。

「なぁ、リン。どうして?どうしてそんな事するの?」

掴まれた胸倉を放せば、彼の足が勢いよく腹に入った。思わず吐きそうになり、今日朝ご飯を抜いて良かったと咳き込みながらも頭の片隅で思う。
その間にも何度も何度も彼の容赦ない蹴りが腹や足を痛める。
リンはそれに体を丸くして、無意識のうちに心臓やらお腹を守る。

「どうして僕の言う事が聞けないの?僕以外の男と話さないでって言ったよね?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

嗚咽交りで何度も謝罪を繰り返す。それでも彼は何度も何度も蹴り付けて、止めたと思えば再び頬に平手打ちされる。
赤くなる頬など関係ないのか、何度も叩かれ口が切れて血が滲む。
すると彼はピタリと動きを止めた。
そしてわなわなと体を震わせ、今度は彼が何度も謝罪の言葉を並べていく。
ごめん、ごめん、ごめん。
その言葉が教室内に響きわたり、何度されても慣れないこの痛みに無表情で涙を流すリンにミクオはぎゅっと抱き締めた。

いつからだろう彼が暴力を振るうようになったのは。
でもそれは全て自分のせい。自分のせいで彼は暴力という形で愛情を表現するようになってしまったのだ。
"僕以外の男の人とは話さないで"
これは付き合い始めた頃に言われた言葉。初めは単なる嫉妬からくるものだと思い、とても嬉しかった事を覚えている。
それでも彼も女の人と話すから、その言葉の重要性を上手く理解していなかったリンは、嫉妬されたいが為にクラスの男子と話をしたのだ。それは教科書見せて、という些細な事。
それが全てを壊してしまった。
初めは本当に幸せだったんだ。幸せ、だったんだ。

ガラッ。
そんな事を思いながらも彼の腕の中で埋まって居れば、教室の扉が突然開いた。
時計をちらりと見れば、既に他の生徒が登校する時間帯になっており。その扉をあけたのも、このクラスの生徒の一人だった。
その生徒はこちらを見るなり、にやにやと面白いものを見たような笑みを浮かべる。
お前らこんな所でいちゃつくなよな、と。そう言った生徒は自分の席へと着き、他の奴も来るぞ。と忠告もしてくれた。
ミクオは小さく、ごめんと呟きながら体を離せば、リンは小さく頷いた。そしてリンは徐に立ち上がり、ミクオを安心させる為に小さく笑みを作る。
そして保健室に行ってくるという事を告げれば、心配そうな表情をするミクオを後に、教室から出て行った。
朝、来た時とは違い生徒達で溢れかえる賑やかな廊下。赤くなった頬を隠すように両手で包み込み、とぼとぼと覚束無い足取りで進んでいく。
進んでいく先は保健室では無く、自然と足は階段を上り。
辿り着いたのは綺麗な青が広がる屋上だった。

その先を歩いて行き、ガシャンと音を立ててフェンスにもたれ掛り、ずるずると床に座り込む。足を折り、体操座りをしてその膝を自分の腕で包み込む。
ぽろぽろと再び零れた涙は儚くも、床に染みを作っていった。




それでも私は幸せ、ですか




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私はミクオの事大好きですよ。
こんな役割で本当にごめんなさい!




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