「指切りげんまん嘘吐いたら針千本飲ます、指切った」

 木霊する笑い声と共に、ぱたぱたと足音を立てて遠くへと消えていく。無邪気な約束事は色褪せる事なく、彼らの胸中に残り香を漂わせるであろう。そんな遠い記憶を蘇らせながらも、そっと布団を被り直した。
 いつしか聞いた事がある。血の繋がった者同士は、結ばれてはいけないのだと。それでも、そんな誰が決めたのかすら分からない事に従うなんてしたくなくて。きっといつか両親も分かってくれる筈だと、そっと瞳を閉じた。
 時計に目を向ければ、針は一時を少し過ぎた所を指しており、思わず欠伸が零れる。窓の外は雲に隠れた月明かりが、一面を闇で照らしている。そう、今は深夜。レンは布団を首まで被り、ぼーっと天井を眺めた。
 布団の中で握っているものを堪能するかのように、何度も何度も握り直す。すると突然リンが隣で、くすりと微笑んだ。レンが愛おしそうに握っているもの、それは紛れもなく双子の姉であるリンの小さな手のひらで。嬉しそうに微笑む彼女につられて、レンのほくそ笑んだ。

 リンとレンは毎日一緒に寝ている。二人の部屋は別々なのだが、どうしても一人で寝るなんてしたくなかったので、交互に互いの部屋で寝るようにしている。両親はきっとそれに気付いていると思うが、諦めてしまったのか何も言ってくる様子は無い。
 二人で仲良く話していると、冷め切った両親の視線が背中に刺さるが、何も気付かないリンと同じように何も気付かないフリをしている。反感を買いたい訳では無い、理解を抱いてほしいのだ。きっといつか自分達の愛を理解してくれる、そんな望みを胸に抱き、今日も明日もこれからも彼女を愛する。
 好きか嫌いかを問う事はない、それは彼女の想いを理解しているから。指を絡め、もうずっと離さないとでも言うように強く握る彼女の指先が、想いまでも一緒に絡め合う、そんな気がした。もしもこの手のひらが離れたら、なんて事は考えない、考える必要もない。

「リン、これからもずっと一緒だからな」

 この言葉の本当の意図は、願望と戒め。寝る前や起きた後、部屋が別れた時もこの言葉でリンを縛り上げている。そしてそれを理解した上で彼女は小さく頷き、レンの唇にキスを落とした。お互いに離れる事のないように、互いに互いで縛り上げていく。
 するとレンは何かを思い出したかのように、握っている方とは逆の手のひらの小指を差し出した。リンはそれを瞬時に理解し、同じように小指を差し出す。
 彼女とずっと一緒に居る事は当然で、彼女の隣に居るのは自分以外認めない。約束事があるから、今の自分が保たれていると言っても過言ではない。
 お互いの瞳を見つめ合い、そっと息を吸った。

「英語の授業中、ミクオに消しゴムを拾ってあげてたけど、もう止めろよ?」
「うん。 そう言えばレンも、体育の時間にネルちゃんと話してたでしょ?」
「もう話さない。 約束しよう」
「うん、これで326回目の約束」

 そっと差し伸べた小指を絡め、誓いを立てるように微笑みあった。
 これはいつもの約束事。お互いの部屋に大きく貼られた紙に、その約束事がズラリと並んでおり、今日でまた一つ約束事が増えた。もしも一つでも破ったら、なんて考えるだけで億劫になる。何かペナルティーがある訳でもないが、お互いに破る気なんてさらさら無いのだから。
 リンとレンはクラスが違うので、お互いに心配が積もっていくのをこの約束事で保たれている。きっと約束事が破られてしまえば、お互いに何をしてでも一緒になる選択を取るような気がする。
 二人は幸せに満ちた時間を堪能するように、そっと抱き締めあった。
 約束事の一番上に書かれた、ずっと一緒に居るという文字は、破られる事なく今でも健在し見下ろしている。




破らない為の約束事ですから




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はーちゃん様、リクエストありがとうございます!
切なくもないし情熱的でもなくなり、なんだかきちんとリクエストに添えてるのか不安ですが、楽しく書かせていただきました^^
二人ともヤンデレ感が滲み出てますが、きっと気のせいではないです(笑)
双子設定、大好物です!良いですよね双子、可愛いですよね双子!
ありがとうございました。



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