「ありえない!」
大きく響いたその声は、昼休みの騒がしい教室内に響いた。頭の上で括った大きなリボンを震わせながら、強く相手を睨み付ける。机の上に置かれた小さな弁当箱は、その様子をじっと伺っていた。
わなわなと肩を震わせるリンは、どうしてこうなったのかと頭の中で思い描いてみるが、この状況になる要素なんてものは一切思い付かなかった。
今は昼休み。教室内は弁当を食べる生徒達でざわめており、その中の一人であるリンも大好きな卵焼きに箸をつけていたところだった。そんな時に現れたのだ、隣のクラスに居るはずのレンが。
彼とは親友であるミクからの紹介でメル友になり、何度か食事にも出かけたりもしている。気が合うし、彼と居るととても楽しいので嫌いではなかった。そう、嫌いではなかったのだが、一体これはどういう事なのだろうか。クラスの皆の視線は、当然のようにリン達へと向けられており、恥ずかしさでどうにかなってしまいそう。
一緒に弁当を食べていた親友のミクも、口を開いたまま唖然としている。
それもその筈。

「こ、この馬鹿! 下ろしてよ!」

膝と腰を支えて持ち上げられ、彼の顔が非常に近い。そう、リンはなぜかレンにお姫様だっこをされているのだ。
この状況にうまく頭が追い付いてくれず、あまりの恥ずかしさで頭の中がより一層ぐるぐると混乱していく。メールでの彼は大人しいイメージがあり、また食事に出かけたときも紳士のような振る舞いをしていたので、彼のこのような大胆な行動は予想外だった。
リンは彼の腕の中でもがくが、一向に降ろしてくれる気配もない。わなわなと口元を震わせながらも、頬の熱は上昇するばかり。
周りに目を向ける余裕もなくて、レンを凝視することしかできなかった。彼は嬉しそうに微笑んでおり、何が何だか分からない。
羞恥で目頭が熱くなってきたので、リンは思いっきり瞳を閉じた。そのせいで気付かなかった、彼との距離が徐々に縮まっていくのを。

突然、クラス内が歓声で湧いた。
一体何だろうと疑問に思っていれば、唇に柔らかな感触。その瞬間目を開けば、視界いっぱいに映る彼の姿。数回瞬きをすれば、キスをされている事に気付き、じたばたと手足を忙しく動かした。しかしリンが抵抗をすればするほどキスが深くなっていき、ねっとりとした舌が口の中へと侵入してきて。
その瞬間リンは目を見開いて、彼の頬に乾いた音を響かせた。その音は教室内に酷く響き、強制的に唇を離させる。レンはリンを抱えたまま少し体制を崩すが、リンを降ろす事はなかった。
引く事の知らない頬の熱に、思考回路がショートしてしまいそう。止まらない鼓動が煩くて、煩くて。

「リン、俺と付き合ってくれる、よね?」

彼が口にした告白をきちんと聞くことができなかった。本当は嬉しくて、すぐにでも頷いてその告白に応えたい。それでも羞恥とプライドが混乱を招き、うまく呂律が回らなくて。え、え、え。と何度も繰り返し、口元を引き釣らせた。
どうしよう、どうして、今何て言ったっけ。レンはあたしを好き、なのかな。いや、でも。
初めてのキスの感触と、彼の言葉が胸の中に渦巻きながらも、どうしてという言葉は消える事はなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、それでも好きという一言が無いということだけが気懸かりで。
それでもそんな困惑は彼の満面の笑顔を見て、一瞬で消えてしまった。きっと彼は、その言葉をリンから言うのを待っている、そんな気がする。そう思ってしまえば何だか悔しくて、リンは引かない頬の熱を隠すように、そっと両手で自分の顔を覆った。

「う、うるさい馬鹿」

何とか絞り出した言葉は、周りの歓声に掻き消される程の小さな声。それでもレンには聞こえていたらしく、笑顔をより一層深くなっていく。
好きなんて簡単に言えないリンが彼に捧げた言葉は、可愛くないが精一杯の強がりだった。




負けた気がするのは君のせい




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うさ様、リクエストありがとうございます!
マセレン×ツンデリンのつもりですが、レンがあまりマセてない気がするのは気にしないで下さい(笑)
公開告白+公開ちゅーが書けて、自分の中では満足しています←
ツンデリンちゃんは本当に可愛いですよね!素直になれない子って、本当に可愛いです^^
ありがとうございました!



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