部屋に響くは聴き慣れた歌詞と歌声。少しノイズ音が耳に障る高音が耳の奥まで浸透していき、とても心地良い。
ベッドの上に腰を掛けて、目の前で歌うその姿をじっと眺める。幸せそうに歌う姿は、まるでその曲と一体になっているかのよう。滑らかに紡いでいく言葉達は、空気中に拡散し振動して、ぽとぽとと落ちることなく広がっていく。
自然に緩んでいく口元と同時に、目を細めその歌声に集中する。この空間に居る自分と彼女、まるでこの世界には自分たちしか居ないのではないかと錯覚してそまいそうだ。リンと二人きりの世界、それも悪くないと思う。彼女の為に歌って、彼女と共に生きて、彼女の全てを独して。なんて、そんな妄想空想は今更だ。そう、今更。

二人を乗せるベッドは余裕綽綽に居座って、悲鳴を上げる事がない。綺麗なバラード調のメロディがこの空間を支配する中、歌う事に集中するその姿に瞬き一つ。
もしも、隣に座っていいる彼女の肩をそっと押したら、どうなるだろうか。
美しい歌声は途切れてしまい、そのままその瞳は歌ではなくレンという存在に目を向けてくれるのだろうか。心地の良い歌声が途中で止んでしまうのは残念だが、それ相応の価値はあると思う。レンはそっと楽しそうに歌うリンに、スカイブルーの瞳を向けた。その瞬間、ふわりと飛んでくるのは蝶々のような音符達。
元々リンとレンは歌う事に意味を宿したボーカロイドなので、ヒトでいう絶対音感というものを生まれながら持っており、またその音達を視覚や肌で感じる事ができる。そんな、気がする。そして今、正にその現象を目の当たりにしている。溢れ出る彩り豊かな音符達が、流れるように舞っている。その中心で歌うリンの姿は、まるで妖精のようだった。その姿に思わず魅とれてしまい、リンの姿を捉えた瞳を離す事が出来ない。瞬きをする一瞬すら勿体無いと思ってしまう。
触れてしまえば、その歌う姿も歌声も途切れてしまう。それでも、触れたい。綺麗で奇麗な彼女を抱き締めて、その歌声と共に自分のモノにしたい。なんて、これでは唯の我が儘だ。レンは小さく喉を鳴らし、そっと宙に彷徨わせた右手をそっと下ろし目を伏せた。
すると、その瞬間ぴたりと音が止んだ。
レンは直ぐに顔を上げて、じっと彼女の姿を見つめる。先程までの蝶々のように舞っていた音符達は跡形もなく消え去り、その代わり以上に綺麗な彼女の笑顔がそこにあった。どうして途中で歌うのを止めたのか、そんな事分からない。それでも、これで良いとでも言うように彼女は大きな瞳で小さく瞬きを繰り返した。

「やっぱり歌うのって好きなんだけど、レンと一緒の方が大好きだなぁ」

だって、その時だけはレンを独り占めしてるような気分になれるもん。そう言って、にへらとはにかむリンの緩む表情に、こちらまで嬉しさが移ってくるような気分だ。
リンの声一つ一つが音符のように舞い始め、それをそっと目で追って。空中分解を繰り返すその言葉は、凛と弾んで消えて流れて溶けて。その全てが心地良くて、消える前に全て掻き集めて飲み込んでしまいたい程。

レンはそっと微笑み、馬鹿だな。と愛しそうにリンの髪に優しく触れた。独り占めをしているのは彼女ではなく、自分の方だ。彼女の声も、その音も。すべて自分のモノにしたいと願い、全てを自分以外のモノにしないようにしている。リンは俺のモノ、誰にも渡さない。なんて、そんな事など単刀直入に言えるわけもないので、彼女の髪に触れる手のひらをゆっくりと下へと下ろしてゆく。
そして、そっと触れた腰を抱き寄せるように引き寄せた。息を詰まらせたリンは、突然の行動に驚愕しているのであろう。それでも離すなんて事はしたくなくて、ぎゅっと抱き締める腕の力を強めた。
リンの声も、リン居る空間も、リンと過ごす時間も、リンの吐きだす息も、全て。

「俺はずっとリンを独り占めしてるよ」

これからもずっと、ね。
そっと紡いだ言葉は綺麗な音となり、彼女を満面の笑顔へと導いた。




今日愛する君を、狂愛しましょう




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匿名様、リクエストありがとうございました!
シチュエーションの指定がなかったので、ボカロ設定のレンリンを書きました^^
お互いに独占したいと思っていて、そしてお互いに独占しあっているといった話なのですが、分かり難くてすみません;;
簡単に言うと、リンはレンのモノであってレンはリンのモノ→無自覚いちゃいちゃリア充……というわけですね!
ありがとうございました。




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