(ミク視点)


あたしは我慢が嫌いだった。
名前も知らない大人達から天才だと謳われ、讃えられ。ここまで辿り着いた経緯や周り声援さえも忘れて、ただただ与えられてはそれが自分の実力だと傲っている。
そんな事などきちんと自覚しているし、勿論そんな考えは間違いだと知っている。それでも知っているだけでは直す事なんて出来なくて。
だから今日も、知らない人から欲しい物を全て与えられて生きていく。

それなのに、それなのに。

どういう事だろうか。目の前の彼女の言葉が上手く理解出来なくて、そっと人差し指でこめかみをトントンと数回叩く。
少し状況を整理してみようか。
今日はいつも通りの朝だった筈だ。まるでマニュアルでもあるみたいに、順調良く過ぎていく日常が吐き気がする程好きで。そして吐き気がする程嫌いだった。
ボーカロイドである故に、毎日歌って歌って歌って。歌う事は幸福であり、歌う事は喜び。二年前にマスターに購入されて、ただマスターの作る曲を歌う事ができれば幸せだった。それなのに、この幸せが崩れ始めてしまったのはいつからだろうか。
トントンともう一度こめかみを叩いて、過去の記憶を思い出す。
マスターの曲がヒットしていって、ボカランの常連になって。あたしの気持ちにも変化が現れだした。そんな時だ、マスターが鏡音リンレンを購入したのは。
勿論マスターは二人の曲を作り始めるものだから、何故あたしよりその子達を優先するのか分からなかった。

そんなある日、今日から三日前の事。ミクは一人で歌の練習をしていれば、そこに大きな白いリボンが目に入って。それが鏡音リンだと気付くのに時間は要らなかった。
彼女はミクの歌声に大喜びで盛大に拍手を繰り返せば、嬉しそうにすり寄ってきた。初めは何だか鬱陶しい子だなと思ったが、彼女の純粋に笑う姿に胸を打たれて。
どうやら相方であるレンと喧嘩したらしい彼女は、練習中にも関わらずミクの所に来たらしい。一番に自分の所に来てくれたという事実が嬉しくて、嬉しくて。一緒に練習しよう!と無邪気に笑う彼女と同じように、そっと頬を綻ばせた。
そして、思ったんだ。
こんなに純粋で、こんなに可愛らしいお人形みたいな彼女が欲しい、と。
だから彼女を貰った。ただ、それだけ。

目の前でクリアケースに包まれた彼女を、うっとりとした眼差しで見つめる。
ここはミクの部屋で、きちんと整理された可愛らしい部屋とは不釣り合いにも、大きなクリアケースがクローゼットの隣に静かに置かれていた。
どんどんと内側から必死に、出して!と訴える彼女が可愛くて可愛くて。
今、この家の中でリンは三日前から行方不明となっている。見つからないのは、いつも部屋を出る時にクリアケースに埃が溜まらないように布を被せているから。
彼女が行方不明となった時、相方であるレンの尋常じゃない絶望っぷりは今でも脳裏に焼き付いている。喧嘩した直後に行方不明になってしまったのだ、後悔や悲しみでいっぱいいっぱいなのだろう。何故か分からないがそれが滑稽で滑稽で、それでも笑わなかったのは笑い死にたくなかったからか。
何にせよ、彼女はあたしの手の物になったんだ。欲しい物が目の前にあるのに、それを我慢するなんで自分にはできない。そう、これは自然の摂理というものだ。

「ねぇミク姉、満足した?」

あれ?おかしいな、クリアケースに入ってる彼女の声は、外部には漏れない筈なのに。耳に入ってきた声は確かに目の前の彼女のものだった。
トントンとこめかみを叩き、考えを巡らせるが何も分からない。今まで必死に内側から叩いていたというのに、突然そんな素振りもしなくなり。そして、今まで見た事のないような笑顔を、その綺麗な顔に張り付けていた。
くすくすと笑う彼女は、そのまま立ち竦み、そっと部屋の扉へと目を向ける。ミクはそれと同じように、扉へと視線を移した。

「「退屈な夢の終わりだよ。さぁ、目を覚まそうか」」

くすくすと微笑むリンと、扉に居るレン。
がががとノイズ音が脳内を渦巻いて、記憶が蘇る。クリアケースの内側に居るのは誰、誰、誰?練習をしていた時、どうして彼女は来たんだっけ?絶望的に悲しんでいたのは本当に鏡音レンだった?
煩いノイズ音が思考回路を滅茶苦茶に掻き乱していく。この感覚は知っている、消える感覚だ。なぜ、その感覚を知っている?
ああ、何だかもう考えたくない。頭が、痛いんだ。

「次会う時は壊れてない時が良いな……さようなら」




隔離されていく世界にさようなら




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何だコレ。
一応、実はバグかウイルスか何かで隔離されていたのはミクだったという話のつもりだったのだが、うん。何だコレ←
とりあえず、ミクごめん!



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