ぺたぺたと冷たい床を素足で歩いていく。明かりは無い。今が昼か夜か、それすらも分からない。時間の感覚なんてとっくに麻痺してしまっており、あれから何日経ったのかすら分からなくて。
重たい身体に、痛む傷。
どうしてこんな事になってしまったのかだなんて、もう忘れてしまった。自分が今、どこに居るのかすら分からなくて。それでも早くこの場を離れなければいけない、という危険信号だけは頭の中で高らかに鳴り響いていた。

この空間に閉じ込められて、約二ヶ月。発狂しても可笑しくないこの状況下で、リンはゆらゆらと揺らめく瞳をそっと伏せた。
ここに閉じ込めたのは、他でもない自分の弟。いつものように変わらぬ毎日を過ごしていたのだが、それは日曜日。両親が丁度出ていた時だった。
突然彼が思い付いたように"ねぇ、姉さん。今日から僕のモノになってくれない?"と言ったのだ。
よくあるバラエティー番組の音が鳴り響く中、その声だけが不釣り合いにも頭の中に叩きつける。あまりに唐突な事だったので、上手く理解が出来なくて。小首を傾げて、え?と聞き返せば、彼は顔を近付けて"分からないなら教えてあげる"と囁いた。
そして手を引かれて、連れてこられたのがこの場所だった。確か家の地下だったような気がするが、やはり思い出すことができなくて。ガシャン、と鳴り響いた鍵の音だけは、今でも脳裏に強く刻み込まれていた。

彼は学校に行っているのか分からないが、ほぼ二十四時間欠かさずここにいる。時々いなくなるのは、料理を作る時やトイレに行く時ぐらいだ。
トイレやお風呂はこの部屋の中には無いので、いつも目隠しをして連れて行かされている。どうして自分の家なのに、あの空間しか見てはいけないのかなんて分からない。しかし部屋からトイレに繋がる廊下でいつも漂う腐敗臭に、どうしてと聞く事が怖くて聞くこともできなかった。
毎日犯されて、毎日泣かされて。もう中出しなんて当たり前だから、きっといつか孕んでしまうだろう。弟の精液にまみれて自然と悦んでしまう程、自分の身体はその快楽に溺れてしまった。
ずきずきと痛む腰と、彼に殴られた頬の痣。抵抗したら叩かれて、マグロのように無言でいれば怒鳴られる、そして逃げ出そうと試みればとてもじゃないけど自分でも説明できない程酷かった。
それでも彼に屈してしまえば、きっと自分は狂ってしまうであろう。自分なのに自分ではなくて、彼に触れた指先の感覚さえ分からなくなってしまう。それだけは、どうしても嫌だった。

リンはそっと辺りを見渡す。今は誰も居ない。今なら、上手く逃げれるかもしれない。もう何度目か分からない脱走を、今日もまた繰り返す。
震える足に、段々大きくなる息遣い。ドクンドクンと鳴り続ける心臓の音が煩い。いつも彼は鍵を閉めて行くのだが、今は鍵が開いている。きっと直ぐ戻るつもりなのであろう。ならば、トイレか。
この空間には、一つしか出入りする場所が無いので、そのドアノブをそっと握り締める。リンはそっとドアノブを回し、少し開いた扉の向こうをそっと覗いた。きょろきょろと瞳を忙しく動かし、誰も映さないそれに安堵の溜め息。
リンは窮屈なこの空間から逃げるために、そっと扉を大きく開けた。

「……姉さん、何してんの?」

思わず息を飲み込んだ。
そっと降ってきた声を見上げれば、突然体を突き飛ばされた。離れていく扉に、届くことの出来ない自由が虚しくも落ちていく。
強く体を床に叩きつけられて、思わず顔が歪む。弟であるレンを見上げれば、彼は冷え切った瞳に怒りを宿してリンを見下ろしている。その表情に、ぞくぞくと背筋が震えた。その瞬間、バシッと乾いた音が鳴り響き。
赤くなった頬に気を取る暇も無く、思いっ切り彼の足が腹を抉った。思わず潰れた声が零れて、涙が目に溜まる。そのまま体を跨がれて胸倉を強く掴まれた。
その強い瞳に圧倒されて、目を逸らす事ができない。

「何で僕から離れようとするんだよ?…何度言ったら分かるんだよ!?」
「ご、ごめ…っ」
「許さない、許さない、許さないから」

胸倉を離したと思ったら、両手を強く握られて。その痛みに顔を歪めれば、そのまま床に縫い付けられた。服を脱がされて露わになる胸を、彼は乱暴に揉んでいく。
リンは僕だけのモノ、リンは僕だけのモノ、リンは僕だけのモノ。
レンは何度も同じ言葉を繰り返し、吐き出していく。その光景は正に狂乱とでも言うのだろうが、それでも嫌いじゃない。
全てが全て、こうなる事を求めていたのは自分も同じ。この空間に閉じ込められるのが嫌な訳じゃない、それでも逃げるのは……。
リンは彼の耳に届かないと分かっていながらも、そっと口角をつり上げた。

「うん、許さなくて良いよ」




愛狂おしい君に愛狂わされたいだけ




--------------------------------------------------
キリ番の55000番を踏んでいただいた、かな様に捧げます!
リクエストの、ドSヤンデレン×隠れドMリンでしたが、書いていて楽しすぎた。
ヤンデレン様の異常な愛は、リンちゃんが可愛すぎる故ですね。そして姉弟設定にしたのは、私がただたんに近視相姦大好物だからです←
リンちゃんのMっぽさが少なすぎたのと、レンのSっぽさが薄すぎましたが、愛は詰まっております^^
あと、ちょっとえrしている描写がありますが、許してください><本番に入ってなかったら許されるかなと思って書きましたが、後悔はしてません←
ありがとうございました!



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -