「レンの馬鹿!だいっきらい!」

部屋に響いた声に、先程まで言い合っていたレンの目が丸くなった。それでもそんな事、気にする余裕もなくて。ふつふつと湧き上がる怒りは治まる気配がしない。これがただの逆ギレだという事は知っている。それでも、それでも。
リンは勢い良く部屋の扉を開けて、ばんっと思いっ切り叩き閉めた。一気に上った怒りは直ぐに沈む事を知らなくて。
ばたばたと階段を駆け下りて、玄関に来れば急いで靴をはけば、乱暴に扉を開けて駆け出した。行き先は無い。ただ、この空間に居たくなかった。彼を見てると苛々するし、何だかチクチクと胸が痛い。

これはいつもの喧嘩と言ったら、いつもの喧嘩なのかもしれない。ただ後で思い返してしまえば、喧嘩の内容が本当にぐだらない。
レンは学校は別々だが、親友であるミクの弟でありリンの恋人。学校が違う事に加えて彼は部活をしているので、いつもあまり会えないのだが、休みの日は毎日二人で遊ぶ機会を作ってくれる。優しくて、リンに対して真っ直ぐで、そして何よりも一緒に居て幸せ。
それなのに、自分ときたら。彼があまりにもミクの話を嬉しそうにするものだから……って、何レンの姉にまで嫉妬してるのだか。
リンはそっと足を止めて、空を仰いだ。目を閉じれば、冷たい秋風が血が上った頭を冷やしてくれる。街中なので、たくさんの人が横を擦れ違い通り過ぎていく。今擦れ違った人はどんな事を考えているのだろうか、今通り過ぎた人はどんな事を願っているのだろうか。
ぽつり。ぽつり。
あ、雨だ。

ザーザーと降り始めた雨に、近くにあったコンビニで雨宿りをする。服が濡れてしまったが、そんな事を気にする事もせず、込み上げる溜め息を吐き出した。もう怒りなんて消えてしまって、それでも彼の家に戻る事もせず。ただただ空を眺めて、目を瞑って。
そう言えば、これに似たような事が前にも一回あったなぁ。と記憶を探れば、思い出すのは彼の優しげな笑顔。あの時は付き合い始めてまだ一ヶ月にも経っていなかった頃、だったと思う。あまり会えない事が寂しくて寂しくて、彼に可愛くない八つ当たりをして困らせてしまった。そして今回みたいに逃げて、後悔して。すると彼は、全て分かっているとでも言うようにむかえに来てくれて。あの時は本当に、自分をむかえに来てくれた王子様に見えた。
何してるんだろうか、昔も今も困らせてばかりだ。いっそのことザーザーと降り続ける雨に打たれて、惨めな自分を晒してみようか。
好き、好き、好きなんだ。だから二人で居る時は他の人の話をしないで、他の人を見ないで。あたしの王子様は君しか居ないんだよ。ねぇ、我が儘ばかりだけどお願いだからそれを全部全部丸めて受け止めて、ってこれも我が儘だね。

そんな事を考えていれば、突然誰かに腕を掴まれた。まさかレンがむかえに来てくれたのだろうかと顔を上げれば、それは知らない男の人で。思わず体が硬直する。
今暇なの?とか濡れてるよ家まで送ろうか?なんて言葉をニヤニヤした顔で覗き込んでくる。
怖い怖い気持ち悪い助けて。
リンは首を横に振ることもできず小刻みに震えていれば、寒いの?と腰に手を回してきた。
背筋に悪寒が走り、思わず頬を叩こうと手を上げれば。今度はその腕を後ろから、別の人に掴まれた。まさか仲間が居るだなんて思わなくて、恐る恐る後ろを振り向く。
すると思いっ切り引き寄せられて、腰に手を回してきた目の前の男から引き剥がしてくれた。顔を上げれば先程までずっと考えていた彼、レンで。目の前の男を見る彼の瞳に、思わず背筋が凍りつく。
そして、ふとレンが傘を持っていない事に気付き、リンが逃げ出した直後に追い掛けてくれたんだと瞬き一つ。
レンは目の前の男なんて目に入っていないのか、お前足速すぎ、とリンの額を小突いた。思わずそこを抑えれば、彼は優しげに微笑んだ。どきりと胸打つ心臓の音に、無意識に熱くなる頬。さっきはごめんね、と言いたくて口を開ければ、突然引っ張られて。
雨の中、二人で駆け出した。
ああ、やっぱり君はあたしの王子様だね。




仲直りの合言葉なんて要らないね




--------------------------------------------------
何というありきたりなマンネリ文章。
しかし喧嘩ネタが書けて満足です^^




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -