手と手を擦り、その摩擦で熱を生む。それでもそれは、冷たい空気によって直ぐに冷えていった。頭の上まで布団を被っても、やっぱりあまり暖かくなくて。 リンはそっとその布団から顔を出して、ゆっくりと首だけを後ろに回す。まぁ、180度首が回る訳でもないので、少しだけ体を捩ってみるが。するとふわりと香るのは自分と同じシャンプーの香り。同じ黄金色の髪が枕の上に散らばり、こちらに背を向けているその肩は規則的な呼吸で上下している。 レンは自分とは違って大きな背中をしており、肩幅も広くて背も若干だが高い。それでも髪の色や質、それだけはいつまでも同じで、それが何だか難痒くて。嬉しいような、それでも何だかあまり喜べないような。 何故かは、それが只の言い訳探しの一つだと知っているから、かもしれない。 リンはレンの双子の姉だ。 昔からずっと一緒に過ごして、一緒に手を繋いでおり、そしてそれは中学生になった今も同じで。その事に嫌悪感なんてものは微塵も感じる事は無く、寧ろ幸せに感じている。 リンは体を動かしてレンの背中へと向き合えば、自分の胸の位置できゅっと拳を握った。 いつからであろうか、双子の弟である彼を恋愛対象として見るようになったのは。今となっては覚えていないが、それでもきっとそれは必然だったんだと思う。別に一番近くに居る異性がレンだったからではない、只々この胸の鼓動がそう感じさせている、から。 学校で余りにも仲が良すぎる故に気持ち悪がられている事は知っているし、これが異常な事だという事も知っている。彼はどう思っているのか分からないが、それでも離れるなんてできないし、したくもない。 一つ目の言い訳、恋は相手を選べない。 なんて、当たり前か。と、リンは口元に弧を描いて、くすりと笑みを零した。リンは冷え症という事もプラスしてか、布団の中だというのにあまり暖かく感じられないので、少しだけ温もった両手で両頬を包み込む。 そのまま規則的な呼吸を繰り返すレンの背中を見つめ、リンはそっと口を開いた。 「…レン、起きてる?」 案の定返ってこない返答。 つまり寝ているという期待通りの反応に、リンは頭の中でガッツポーズ。そしてそっと腕を彼の腰に回して、ぴったりと背中に頬を付けて抱き付いた。 暖かいその温もりと、彼の大きな背中が心地良い。 二つ目の言い訳、彼と自分は違うから双子だって事を忘れる。 なんて、自分の願望だよね。と、リンは小さく苦笑。 好き、好き、好きなの。もう何度その言葉を飲み込んだのか分からないが、今だけは素直にその言葉を吐き出せる。伝わらないのは悲しいが、伝わって拒否されるのはもっと悲しい。それでも胸が苦しいのはきっと、抱き締め返してくれる温もりがないから。 リンはぎゅっ、とレンの体を強く抱き締め、好き。ポツリと零した言葉は静寂な夜に消えていった。 リンはそのまま眠る為に瞼を閉じれば、それと同時に彼の体が動いた。そんな気がして、そっと目を開いた。 ぱちり。 目の前でレンと目が合った。リンはそのまま唖然と数回瞬きを繰り返し、自分が今彼に抱き付いている状態だという事に気が付いて。 リンは慌てて、ごごごめん!と彼の体から手を離した。顔を真っ赤にさせて両手で口元を覆い隠し、頭の中で回るのは自己嫌悪。 気持ち悪いって思われたかもしれない、これからずっと一緒に居たくないって思われたかもしれない、……好きって聞かれた、かもしれない。 ぐるぐる回る言葉達と、どうしようという5文字。拒否されるのが怖くて、レンの顔をきちんと見れなくて。 リンは、お休み!と体を動かしてレンに背を向けた。つもりだった。 「……えっ?」 動かそうとした体は動かず、暖かな温もりに包み込まれて。リンは目を見開いて彼を見上げれば、その近さに体を硬直させた。 どう見ても抱き締められているという現状に、頬が熱くなっていく。そっと彼の瞳を見つめれば、彼はどこか大人びた雰囲気を醸し出して、緩やかに微笑んでいた。 寝ぼけているのかそうでないのか。もしそうでないのであれば、どうして抱き締めてくれたのか。そのスカイブルーの瞳を見つめても答えなんて分からなくて。それでもこの幸せな気持ちは本物で。 これが夢でないのであれば、どうかこの幸せがずっと続きますように。 そっと夢を見ていたくて 腕の中で小さく丸まっている双子の姉。 起きているのかという彼女の問いに、本来ならばイエスと答えるところを答えなかったのは、自分の理性と戦っていたから。なのでリンが突然抱き付いてきた時は、本当にどうしようかと思った。 それでも彼女の"好き"という言葉に我慢なんてできなくて。せめて抱き締めるくらいは許してくれるだろう、と頭の中で自分自身に思い込ませた。 好き、好き、好きなんだ。壊してしまいたくなる程大好きなんだ。 もしこれが夢なのであれば、自分の都合の良い方向に進む夢もたまには許される、よな。 -------------------------------------------------- 双子の姉リン×弟レン 本当は両想いなんだよ、という話。 |