(つまり青春ってやつですよのレン視点)


朝日が昇ったばかりの、そんな静寂な朝。
まだ両親も寝静まっている中で、ありきたりな目覚まし時計のアラームが煩くも鳴り響いた。いつもの事なのだが、やはりこの音は好きになれない。
レンは布団に潜ったまま手探りでそれを止めれば、再び戻ってくる静寂。
そのまま眠りにつきたい気持ちを押し殺し、上半身を起こした。それに比例するように布団を捲り、大きな欠伸を一つ。
朝、起きるのは苦手だ。そのお陰で遅刻を何度もしており、職員室への常連にもなってしまった。初めは確かに頑張って起きないといけないと思っていたのだが、やはり慣れとは恐ろしい。完全に遅刻になる時間帯に目覚めても"ま、いっか"と終わらせてしまうのが多々ある。
それでも今日はその"ま、いっか"で終わらせる訳にはいかない。何故なら今日は、バスケ部での男女合同の朝練があるから。
バスケは中学の頃から続けていたし、大好きだからもっと上手くなりたかった。それに大きな大会に出場した時の、あの緊張感と熱意に満ちた空間は今でも忘れられない。
あともう一つだけ、部活だけは頑張りたいという理由がある。それは女子バスケ部の後輩、鏡音リンだ。
彼女を見ているとバスケをしている時とは違った嬉しさが込み上げてきて、何だか無駄に格好付けたくなってしまう。勝手に頬が熱くなるし、直ぐに意識してしまう。その感情の意味を知ったのは最近だが、知ってしまった後からは今まで以上に意識して良いところを見せたくて心だけが先走ってしまう。
学年が違うので合同練習の時にしか会えないし彼女はどう思っているか分からないが、それでも好きになってしまったのだから仕方がない。

レンは大きく欠伸をすれば、そっとベッドから抜け出して。いつも着ている制服を身に纏い、鞄を手に取る。時間を確認すれば合同練習の開始一時間前。レンは自転車通学なので、その十分間に合う時間帯を横目に満足気に口角を上げた。
朝食の食パンを口に加えて、口を動かしながら髪を整える。そして、いつものように練習の前に自主練をする為に、勢い良く玄関の扉を開けた。
早朝の空気に小さく身を震わせながら、毎日の相棒である自転車に跨り。軽く漕げば、流れるのはいつもの風景。
それでも無意識に考えるのは後輩である鏡音リンの事だった。
もしもこの風景を一緒に眺めたら、彼女はどんな事を思うのだろうか。もしも彼女ともっと話す事ができたのなら、彼女はどんな事を話すのだろうか。リンの笑顔を思い出しながら、そんな事を考えていれば。
レンはふと自転車を止めて、急いで来た道を引き返した。
(そうだ、一緒に登校すれば良いんだよ!)
自主練をしようと思っていたのだが、優先順位は明確で。バスケより優先にしようと思うなんて、彼女に関係する事以外では確実に無いと自分でも思う。
ああ、もう。ベタ惚れってやつですよ。

レンは部長である為、部員の住所と携帯番号は把握していおり、それは女子バスケ部も然り。なのでリンの自宅の場所も知っている訳で。
リンの通学路を自転車で逆走しながらも、きょろきょろと彼女を探す。
鏡音さんは毎朝この風景を見ているんだな、なんて思えば自然と緩む頬。部活の時もよくドジをしてボールを顔面で受け止めたりする彼女の事だから、きっと通学中も何かしらのハプニングがあると思う。
そんな時、一番に助けにいきたいと思う。なんて、ちょっとクサかったかな。
頭の中でそんな事を考えながら自転車を漕いでいれば、もうそろそろリンの家に着く頃だと気付き少しの疑問。
彼女は徒歩通学の筈なので、今の時間帯からして歩いていてもおかしくないのだが、何故か彼女の姿が見つからない。時々擦れ違う通行人に挨拶しながらも、頭の中では見落としたのかと不安が過ぎった。

リンの家の前に着くと、自転車を止めて携帯電話を取り出す。そして器用に電話帳から鏡音リンの番号を呼び出せば、迷うことなくそれに掛けた。
しかし数秒間、彼女の好きそうな待ちうたを聴いていても、一向に出る気配がない。レンは一旦電源ボタンを押して、もう一度掛け直した。
登校中なので気付いてないだけなのか、若しくはまだ家で寝ているだけなのか。流れるメロディーに耳を傾けながらも、どちらを引いても溜め息ものの答えに、息を呑み込んだ。
その時だった、曲が鳴り止んで彼女の声が聞こえてきたのは。
もしもし、といったありきたりな言葉はまだ声が寝ており、その甘ったるい声に少しの苦笑。
予想の答えは後者に終わったが、それでもまだ一緒に登校できるという望みに小さな微笑。

「やっと出た」

苦笑混じりにそう伝えれば、リンは少しの間を開けて慌てたような声を上げた。
きっと慌てて布団から起き上がっているんだろうな、なんて。簡単に想像ができるその風景を思い浮かべ、声に出さず小さく笑みを零した。只単に寝坊したのか、あるいは朝練を忘れていたのか。どちらにせよ後で注意しないといけないな、と空を見上げれば。
"先輩、えと……どうしたんですか?"
そんな間の抜けた声が聞こえてきて、つられてこちらも間が抜けてしまった。
二つ目の予想の答えも堂々と後者に回り、思わず苦笑混じりの溜め息を吐き出す。それでもそんな彼女が可愛くて怒る気なんて一切起こらないのは、完璧に惚れた弱みだと思う。

「今日は男女合同での朝練があるだろ?」

レンは溜め息と一緒に言葉を紡げば、リンは数秒の間を開けて。
すみません!と泣きそうな声を張り上げて、そのまま通話が切れた。レンは携帯電話を見つめて数回の瞬き。
そしてばたばたと騒がしくなった彼女の家を眺めて、苦笑混じりに携帯電話をポケットに押し込んだ。
だんだん大きくなっていく足音と共に、ばん!と勢い良く玄関の扉が開いた。それは案の定、リンで。彼女はレンの存在に気付かず、そのまま地面を蹴り上げた。
やはり部活をしている為か、猛疾走で走る彼女が速くて、思わず感嘆の声が零れる。そんな彼女に置いて行かれないように急いで自転車を漕げば、どうしよう完璧遅刻だよ。という彼女の泣き言に、レンはくすりと笑みを零した。

「遅刻は駄目だよ、遅刻は」
「!?」

想像していなかったのであろう、駆ける足を止めて振り返ったその表情は、目を丸くさせて驚いている。
自転車を止めて、唖然とする彼女を笑顔で見つめる。数秒間瞬きを繰り返す彼女を見つめて、レンは軽く自転車を漕いで。
すいっ、とリンの目の前で止めれば、そっと手招きをして自転車の荷台に指を指す。そして彼女に向けてニッと笑みを見せれば、リンも同じようにニッと笑みを浮かべた。
そして彼女が荷台に乗ったのを確認して、そのまま自転車を走らせる。
背中に伝わる彼女の体温と腰に回る腕に、自然と熱くなっていく頬を冷ますように風が頬を優しく撫でた。




つまり青春ってやつですね




--------------------------------------------------
『つまり青春ってやつですよ』のレン視点。
タイトルが一文字違いなのは仕様です←
レン視点を書いたらレンがイケレンではなくベタ惚レンになりました(笑)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -