聞き慣れた鐘の音。学校の授業を告げる予鈴が校内に響き渡る。
ゆっくりと歩いていた生徒達は、それを合図にバタバタと慌てて校内を駆け巡っていく。
今日もいつものように学校が始まった。予鈴が鳴り終わる直前に扉を開ける者や、一歩遅れて遅刻する者もいる。もう見慣れてしまった、いつもと同じ光景。
席が窓側なので、いつもその光景を窓からそっと見つめている。理由は無いが、何となく見つめている。
そんなに必死に急ぐならもっと早めに家を出たら良いのに、なんて。頭の中で呟きながらも、あまり人の事言えないし、この光景を見るのも嫌いじゃない自分に苦笑。
そんな中、ふと目に入ったのは男女のカップル。
綺麗な緑の長髪を二つに括っているのは校内で一番可愛いんじゃないかと言われている子と、同じく綺麗な緑の髪の男の子。二人は予鈴が鳴り終わっているにも関わらず、ゆっくりと手を繋いで歩いている。
そのとても幸せそうに微笑み合う二人を見ていれば、なんだか羨ましくなってくる。
あたしもあの子達みたいになりたいな、なんて。勝手にあの子達を自分に写して想像してみても、どうせ叶わない夢。
それでも、何度もそんな事を考えてしまう程、頭の中から離れないのだ。実の兄の姿が。

そう、リンは自分の兄であるレンに恋をしているのだ。それは彼が一番近くにいる異性だから、そう錯覚してしまった訳ではない。
どきどきと高鳴る胸の鼓動は嘘ではないし、彼の周りにいる女の子達への嫉妬は偽りでもない。
数ヶ月前、彼が付き合い始めたと聞いた日、リンは吐き気と共に毎晩のように悔しさと悲しさを涙で流した事は今でも鮮明に覚えている。確か一週間も満たない内に別れたと聞いたのだが、それでも何だか彼がもっともっと遠い存在になったようで心が晴れる事はなかった。
そしてそれは今も同じで。ずっと続いている胸の奥のもやもやとした感情は、何をしても消える事がなかった。
リンはそんな兄と同じ高校に通っている。兄は勉強面でも運動面でも優秀な成績を残しており、五段階評定の通信簿はいつも五で埋め尽くされていた。リンはそんな兄を尊敬していたが、実際は別の高校へと行きたかった。
しかしそれは兄が断固拒否をし、そのまま両親も丸め込まれ、この高校に入学したのだった。
再び溜め息を吐き出しながらもぼーっとしていると、なぜか兄の顔が浮かんでくる。なんでも簡単にこなしていく兄の姿、自分を誉めてくれる兄の姿。
その姿が頭の中に出てくる度に自分は兄が、レンの事が好きなんだと自覚してしまう。
でも、それと同時に恋をしてはいけない相手だという事が胸に突き刺さってくる。諦めなくてはならないのに、諦めきれなくて。忘れなくてはいけないのに、忘れられなくなくて。これは只の我が儘が、否か。
わかってる。頭では、わかってるんだ。

「………リン!」
「わっ!?」
「もう、ちゃんと起きてる?」

グミの呼び掛けに、ぼーっとしていた頭を現実へと呼び覚まされた。
気付けば朝のホームルームは終わっており、辺りは一時間目の体育の為に着替えをしている。
目の前の彼女は既に着替えを済ましており、この教室に残っているのは少数の女子しかいない。全く気付かなかった事に苦笑。
体育館へと向かうために教室から出るのが最後になると、鍵を閉めなければならない。それは勘弁なので、急いで着替えて教室を後にした。


「…でさ、この前ね!……」

グミがいつものように話し掛けてくる。話題が尽きないのか、そのマシンガントークは終わる気配がない。
それでも彼女の話を聞くのは好きだったし、グミと居ると正直言って楽しい。
しかし、今は兄の事で頭がいっぱいなので、頭の中にグミの言葉がきちんと入ってきてくれなくて。彼女には悪いと思うが、適当に返事をしてその場を凌いでいた。
一時間目の体育館への移動。この時間は嫌いだ。
なぜなら、

「リン」
「……っ、お兄ちゃん…」

火曜日の一時間目。レンのクラスも移動教科らしく、いつもこの時間は嫌でもすれ違ってしまう。
この瞬間が一番苦手で、とてつもなく辛かった。
叶わぬ恋だと知っている故に、辛くて、苦しくて、とても悲しい。
このまま一生顔を合わす事がなければ、この気持ちも忘れてしまえるのに、なんて思ってしまう程。それでも一生顔を合わす事ができなければ、自分が自分でなくなるような気もする。

「リン、またな」

軽く手を振り、ニコッと微笑みかけてくる兄。
本当は嬉しくて、嬉しくて、抱きつきたかったけど、その思いを胸の中に押し殺し、無言のまますれ違った。
もしもあたしが恋をしてなかったら良かったのか、もしもあたし達が兄妹じゃなければ別の道を選べれたのか。
この言葉がまた自分を蝕んでいく。




想いは棄てたつもりでした




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近視相姦で片想いリンちゃん。
実はレン(→)←リンのつもりです。




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