朝、目が覚めたらあまりの冷たさに体を震わせた。
未だに半分眠っている頭で、暖かさを求める為に起こした体を再度横にさせ。そして布団を体いっぱいに被れば、そのまま温もりに瞼を落としていく。
そこで漸く、昨日一緒に寝た筈の片割れが居ない事に気付いたが、今は眠気でそれ以上疑問に思う事はなかった。
いくら歌う為に作られたボーカロイドだからと言っても、眠くて寒いのだから仕方がない。
無理して風邪でも引いたらいけないから、と頭の中で言い訳を作り。今日のレッスンは午後からにしてもらおう、と夢の続きへと落ちそうになった、その時だった。

突然、ばん!と扉が開いたと思ったら。リン起きた?と、片割れであるレンの大きな声が部屋に響いた。
驚いて思わず肩が震えたが、それでもまだ布団から出たくなかったので聞こえないフリをする。布団で顔を隠し、目を閉じて。
きっと布団の外は、冷たい空気が広がっているのだろう。家の外に出ればそれ以上に冷たくて、きっと吐く息さえも冷やされて白く濁るに決まっている。考えただけで、ずっとこのままでいたくなる。
それでもそんな欲望なんて、彼の一言で一気に消えていった。

「雪積もってるから、教えようと思ったのにな…」
「…え、雪!?」

先程までの眠気はどこへやら。がばっ、と勢い良く上半身を起こして、そのまま布団を剥ぎ取る。
起きてたんだ、と目を丸くさせて瞬きを繰り返すレンに見向きもせず窓に向かう。そしてカーテンを一気に開けば、窓の外に広がる一面の白に思わず感嘆の声が漏れた。
庭やら道路やら、家の屋根に積もった雪達。頭の中では、凄い凄いと同じ言葉を繰り返す。するとレンも隣に来て、お互いに目を合わせて微笑んだ。
リンとレンは今年の夏にこの家に来たので、実は雪を見るのは初めてなのだ。マスターから事前に雪の存在は聞いていたのだが、こんなにも綺麗で幻想的だとは思わなかった。
窓が外と中の気温差で白くなり、それが外の寒さを物語っているが、それでも窓の外に広がる雪に興奮が収まらなくて。
窓の外に集中して感嘆の声を漏らすレンの腕を掴み、外に行こう!と彼が何か言う前に、そのまま引っ張った。そして一気に階段を駆け下り、勢い良く玄関の扉を開ける。

するとそこに広がるのは、窓越しとは違い、綺麗な白が鮮明に広がる絨毯のような雪だった。
雪の上を踏めば、柔らかなそれが靴を埋めて。隣の家で雪掻きをする人や、雪の中を駆け抜ける子供達。そんな光景全てが初めてで、感動のあまり声を出す事を忘れていた。
寒くて、吐き出す息が当然のように白くなる。それでもこの場から動く事が出来なくて。
そんなあまりの綺麗な白に目を奪われていれば、突然顔に冷たい雪の塊が飛んできた。

突然の事だったので、勿論避ける事なんて出来ず、顔面でそれを捉える。一気に冷やされた顔は、冷たさのあまり真っ赤になって。
数回瞬きを繰り返し、雪が飛んできた方を見れば、にやりと楽しそうに笑うレン。そんな彼を見れば、彼が雪を投げつけた犯人だと直ぐに分かり。
負けず嫌いなリンは頬を膨らませて、やったな!としゃがみ込み、雪玉を作る。そしてそれを彼に投げつけた。すると彼は、軽やかにそれを避けるものだから。
ははは、と笑う彼の顔面に再び雪玉を素早く投げつければ、今度は彼がそれを顔面で受け止めた。

「あはははっ、当たったー!」
「…っ、やったな!」
「あははっ、冷たーい!」

雪玉を作って投げては、当てられて。避けられると悔しくて、それを繰り返す。
雪で服が濡れて冷たくて、それでも楽しくてやめられなくて。雪玉を丸める時に真っ赤になった手を見て、手袋をすれば良かったと思ったが。その時、頭に雪玉が当たり、そんな事など後回しにして。
リンは何個も作っておいた雪玉を、一気にレンへと投げつけた。
予想をしてなかったのか、わ、わ、と慌てる彼の姿に笑みが零れる。走って避けるレンに目掛けて投げるが、彼はそれらを全て避けて、そのままこちらに走ってきた。
そんな彼に、今度はリンが慌てる番。

「ちょっ、レン待っ…!」

リンの静止の言葉も虚しく、レンはそのままリンとぶつかってその場に倒れ込んだ。
それでも背中は冷たい雪が守ってくれて、そこまで痛くはなかった。
そしてお互いに目と目を合わせて、くすりと微笑み。可笑しそうにお腹を抱えて笑った。何故か分からないけど、可笑しくて可笑しくて。
思わず溜まった涙を指で拭い、一緒に立ち上がる。
そして今更寒さが身に染みてきて、くしゃみを一つ。すると彼に手をぎゅっ、と握られて、再び互いに微笑み。
真っ白い雪に背を向けて、玄関の扉を開いた。




白い雪に幸せを乗せて




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志音様、相互ありがとうございます!
リクエストの『雪合戦ではしゃぐリンちゃんとレン君』でしたが、これは只単に雪にはしゃぐリア充レンリンですね(笑)
あまりに可愛いリクエストに、書いていて楽しかったです^^
ありがとうございました!




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