(原曲様:鬼彼女)


三ヶ月前、彼氏が出来た。
彼は幼なじみで、小さい頃からずっと片想いしていた人。そんな彼と長い月日を経て、漸く恋が実ったのだ。
クラスでも人気が高かったし、他に好きな人が居るという噂も多々あったので、彼から告白を受けた時は泣く程嬉しくて。いつも彼は優しくて、そんな彼の隣に居て幸せで。
つまり幸せの絶頂期というやつだ。
しかし最近不満がある。
その不満は積もるばかりで、爆発してしまいそうだ。

今日は日曜日。只今そんな彼、レンとデート中。
空は雲のない晴天で、ずっと楽しみにしていたので本当に嬉しい。
それなのに、そんな幸せな一時に、時間が経過していく毎に積もっていく不満。その不満は自分でも理由は分かっている。
それは、いつもお洒落やメイクに気を使っているのに彼は気付いてくれない事だ。
だから今日はいつも以上に頑張って、姉であるミクに服を選んで買ってもらったり、メイクも彼女の手を借りて頑張ったのだが。
手を繋いで、隣を歩くレンは一向にこの事に触れてくれない。ただただ、どこに行きたい?とかリンの為に頑張ってチケット買ったんだよ、とか。
ああ、もう!あたしの頑張りを無駄にするなんて、張り倒すわよっ!
むすっ、と頬を膨らませ、擦れ違うカップル達を眺める。本当に幸せそうに微笑む彼等が、少し羨ましく感じてしまう。
何も言ってくれないという事は、可愛くないという事なのだろうか。そんな不安がいつも、いつも湧き出てくる。
いつもいつも何も言ってくれないが、きちんと言葉で言ってくれないと分からないし、彼の言葉で言ってほしい。
リンは溜め息を吐き、小さく呟いた。

「……なんで、お洒落頑張ったのに気付いてくれないのよ」
「え?そんな事で怒ってたの?」
「…っ!」

驚いた。まさか聞こえているとは思わなくて、思わず彼を見れば。
彼は驚いたように目を見開けて、瞬き一つ。
そして"ちゃんと気付いてたよ、すっごく似合ってる"なんて。
とても嬉しい言葉を言われたのに、込み上げるのは不満と苛立ち。今更そんな事を言われたって嬉しくもないし、後付けみたいで何だか惨めになってくる。
リンは口を尖らせば、レンは慌てたように、ごめんごめんと困ったように頭を軽く掻いた。
そんな仕草一つ一つに、どきりと胸が波打ち。
それでもそんな恋の魔法も、何度も何度も繰り返されれば全然効かないんだから!
リンは帰り際に、レンの膝を蹴ってやった。


次の日。少し肌寒いこの季節、家から学校に着くまでの時間が寒くて仕方がない。
リンは手をさすりながら、仕方ないから昨日の事は水に流してあげるか。なんて思ってしまう自分は、彼の魔法の虜になってしまってるのかな、と小さく微笑んだ。

学校ではレンとはクラスが同じなので、昼休みの時間は一緒に弁当を食べている。彼と他愛の無い会話をするのが好きだし、隣に居てくれるだけで幸せ。それなのに、君はまた。
今は昼休みの時間なのに、彼がこちらに来てくれない。
リンの目線の先に居るレンは前の席の男の子と、隣の席の女の子二人と楽しそうに話をしている。どんな会話をしているのか、こちらからは分からないが、何だか気に食わない。
別に他の子達とは一切喋らないでと言っている訳ではないが、きちんと自覚してほしい。君の特別はあたしなんだよ、という事を。
誰にでも優しい彼のそんな所も好きなのだが、その平等さが時に腹立つ。
きっと彼がこちらに来た時にどうして直ぐ来てくれなかったのかを聞けば、あの子達と話してたからなんて言うのだろう。
ああもう、あたしとあの子と大事なのはどっちよ!蹴っ飛ばすわよ!
それとも不満なの?あたしはレンの何なのよ、彼女じゃないの?
リンは頬杖を付き、深く溜め息を吐き出した。
早く隣に来て手でも繋いで、皆の前で抱き締めてみてほしい。そうすれば、少しは不満が薄れるかもしれないし。
彼はきちんとリンにも優しいのだが、その優しさが皆と同じような優しさなので、不満なのだ。きちんと好きだって態度でも示してほしい。
リンが再び溜め息を吐き出せば、目の前に彼が来て。そして困ったような表情ではにかんだ。
そんな仕草にまたしても、どきりと心臓が波打ち。
だから、そんな何度目か分からない恋の魔法で誤魔化す気?そんなの全然効かないんだから!
リンはお弁当を片手に持つレンの頭に平手打ちした。


本当はどう思っているのだろうか。
目の前で弁当に手を付ける彼を見て、目を伏せる。
いつも見るのは彼の困り顔。嫌いならはっきりと言って欲しいし、我慢をしているのなら止めて欲しい。もし、我が儘だと思うのであれば怒ってくれたって良い。
彼は本当に優しいから、そんな彼の優しさでこの関係を嫌々ながらも繋いでいるんじゃないかと、不安で不安で。
彼は本当に好きでいてくれているのであろうか。好きでいて欲しい、好きと言って欲しい。
本当は自分からぎゅっと抱き締めたいし、抱き締めて欲しい。
リンは口に運び掛けて止まっていた箸を、そっと下ろし、小さく唇を噛み締める。そんなリンに疑問を感じたのか、彼も箸を下ろして心配そうに顔を覗き込む。
リンは、いつの間にか瞳に溜まっていた涙を流さないように堪えながら、彼に涙が見えないよいに顔を下に俯き。それでも一度落ち込んでしまった思考は、段々と雪崩のように落ちていく。
ああもう馬鹿みたい。

リンはそっと立ち上がって、教室から出て行く。
出て行く時に彼の声が聞こえたが、そんな声なんて聞こえないフリをする。先程まではあんなにレンに早く来てほしかったのに、どうしてか今は一人で居たかった。
行き当てなんて無いが、ひたすら階段を駆け上る。
本当にレンが好きなんだ。好きで好きで好きで、きちんと見てくれないと悲しくて、自分だけがこんなに好きなんじゃないかと不安で。
優しくて、格好良い彼が好き。だから、愛想笑いはもうやめてよ。

「リン!」
「……っ!」

突然腕を掴まれて、強制的に立ち止まる。階段の途中だったので落ちそうになったが何とか持ちこたえ、振り返れば案の定レンで。
彼は困ったような心配そうな瞳で、リンの名前を呼ぶ。ああ、またそんな表情をさせてしまった。
リンは溜まっていた涙が頬を伝った事なんて気付かないまま、彼から目を逸らす。
離して!と手を振り上げれば、その手をすかさず掴まれた。そして壁に背を預ける形となり、思わず息を飲む。
段々と彼の顔が近付いてきて、どきどきと胸が高鳴った。全然効かないと思っていた恋の魔法が、今になって効力を発揮して。頭の中がぐるぐると回っていく。そして、ぎゅっ。と彼にきつく抱き締められた。
彼は先程クラスの友達に、リンの気持ちも分かってやれと言われたらしい。人に言われて気付くなんて遅いと思ったが、それでもどきどきとした緊張の方が上をいき、文句の言葉なんて出て来ない。
今までずっと欲しかった言葉、好きだという言葉を何度も何度も言われて。今までずっと欲しかった態度、好きだという想いを全身に浴びて。
やっぱり君の事なんて嫌いになれないよ。
リンは、そっと彼の背中に腕を回そうとした、その時だった。

「ごめん……じゃあ、結婚しよう!」

一瞬、言葉を失った。
目の前には真剣な瞳で見つめる彼。
その言葉を理解するのと同時に、一気に頬が真っ赤になっていくのが分かる。ふつふつと込み上げる熱。
それでもリンは、一番言いたい言葉を彼に向かって叫んだ。

「調子に乗るんじゃねぇわよ!」




鬼彼女の憂鬱




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幼なじみレンリンで学パロ。一応幼なじみ設定なんです、よ…?←
ファミロックPの鬼彼女を聞きながら書きました。
イメージが崩れたりしたらすみません。
愛は詰まっております^^

素敵な原曲様
【鏡音リン】鬼彼女【オリジナル】




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