今日は大晦日。只今マスター直伝の年越しそばを食べている。
実はマスターの家に来たのは今年の秋だったので、年越しそばを食べるのは初めてで。リンはいつも以上にそわそわと落ち着かない気持ちで、そばを啜っていた。
マスターの性別は女性で、彼氏いない歴イコール自分の年である、大学生だ。作曲は最近始めたばかりなので、まだオリジナル曲は無いし、調教技術もあまり上手くはない。それでも少しずつだが確実に上達していっているし、何より本当の家族のように優しく接してくれる。
マスターは一人暮らしなので、今この家にはマスターとリンとレンの三人しかいない。それでも寂しいなんて事は一度も思った事もない。
つまり、この家に来れて幸せなのだ。

「二人とも、美味しい?」
「うん!すっごく美味しいよ!」
「俺も!おかわりある?」

レンがそう言うと、リンも便乗しておかわり!と身を乗り出す。するとマスターは嬉しそうに、はいはいと立ち上がった。
そんなマスターの背中を眺めながらリンは足をバタつかせ、レンの方を眺めながら微笑みかける。
明日になれば新しい年を明ける。そんな実感なんて全然しないけど、マスターとレンと一緒に年を明ける事ができるって幸せだな、なんて言葉を頭の中で巡らせていれば。レンはそっとリンの頭を掻き回した。
あまりの予想外な彼の行動に、されるがままになり、髪の毛がぐしゃぐしゃになる。彼が手を離したのと同時に、それを手櫛で直していれば、彼はニッと笑った。
そして何も言わずに、マスターの背中を眺める。その表情は何だか落ち着きがなく、そしてどこか嬉しそう。それを見て、彼が自分と同じような気持ちでいる事が直ぐに分かり、何だか難痒い。
そしてタイミングよく、おかわりである蕎麦を用意してくれて。二人で微笑み合って、それを啜った。


「ええー!マスター出掛けちゃうの!?」

思わず声を上げてしまったのは、年越しそばを食べ終わって、三人でテレビでも見ていた時。
リンは三人で年を越す気満々だったので、頬を膨らませ拗ねたように口を尖らした。そしてレンも、どこか残念そうにマスターとリンの様子を伺っている。そんな中、マスターは満面の笑みで、これはチャンスなのよ!と熱く目を燃やした。
どうやら、今日は大学の集まりで合コンのようなものをするらしい。何も今日くらい合コンなんて行かなくても良いじゃないかと思ったが、マスター曰わく、恋に年末もお正月も無いらしい。早くしないと相手がいなくなっちゃうよ、と恋に焦っているマスターを見ていると、何も言えなくなってくる。
しゅん、とリボンを垂らして落ち込むリンに、マスターはそっと頭を撫でた。そしてリンとレン、二人の名前を呼んで、そっとバックから楽譜を取り出した。
それは今まで見たことのない譜面で、二人は互いに顔を見合わせ、まさか!とマスターの方へと顔を向けた。
するとマスターは、案の定これは二人の為に作ったオリジナル曲だと微笑んだ。

「今までずっと歌わせてやれなかったから、頑張ったんだからね」
「ありがとうマスター!大好き!」
「マスター、ありがとう…!」

リンは楽譜を握り締め、盛大にマスターに抱き付いた。そしてレンも嬉しそうに微笑み、そっとマスターに抱き付く。そんな二人を愛しく感じながら、マスターは二人の頭を撫でて。
ふわりと二人を包み込むように抱き締める。
マスターの腕の中は暖かくて、とても安心する。来年はもっと作れるようになるから、よろしくね。そう言ってマスターはリンとレンの体を離し、行ってきますと再び二人の頭を撫でて、背中を向けて。
そして軽い足取りで家を後にした。

リンとレンは嬉しそうに楽譜に目を向けて、そのぎこちない譜面に、マスターが頑張ってくれたんだと実感できて凄く嬉しい。
そして二人は互いに顔を見合わせ、早速歌い始める。
室内に響くぎこちないハーモニー。この歌は恋の歌で、二人の恋人の絆を歌った曲。それが何だか自分達の事みたいで、とても歌いやすかった。
初めて歌う曲なので、二人共時々歌詞が途切れ途切れになったり、ズレたりしているが、歌っていてとても気持ちいい。
そして歌い終わって一息ついた後、互いに顔を見渡して楽しそうに笑い合った。

「ははっ、下手くそ」
「あははっ!何よー、レンもじゃん」


リンとレンはお腹を抱え、涙を溜めながら笑い合えば。
言ったな、とレンはそのままリンを押し倒して、脇腹を擽った。リンは擽ったそうに身を捩って、あははギブギブ!と彼の背中を叩く。その声にレンは手を止めて、再び互いに笑い合った。
そして抱き締め合い、見つめ合う。
時計の針の音や、テレビから流れる番組。そんな音なんて聞こえていないかのように、二人だけの世界でじっと見つめ合う。まるで愛しいものを堪能するように。
そしてそっと瞳を閉じて、唇を重ねた。それは触れるだけのもので、離れる時に小さなリップ音が響く。
進んでいく時計の針はいつの間にか新年を迎えていて、これが初キスだね。なんて二人で微笑み。
指と指を絡め合う。こつん、と額と額を触れ合って、鼻と鼻が触れそうな距離で、互いに頬を染めて。ずっと一緒だよ、と再びキスを落とした。
次の年はマスターも含めて三人一緒に越して、そしてその次の年も、その次も。
たがら、ね。
来年が楽しみになるくらい、今年も最高の一年にしようね。




今年もよろしくお願いします




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2011/01/01
A HAPPY NEW YEAR!
年初めに、いちゃみね投入。
やっぱり年初めにシリアス投入は止めときました。
鏡音可愛いよ鏡音!





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