(レン視点)


ぎゅっと握る手のひらはこんなにも冷たくて、暖かい。
恋が勝手に一人歩きして、止まってくれなくて。目の前の彼女の涙の意味なんて分からないが、確かに綺麗だと思ったんだ。離してと悲願する彼女の手を離さなかったのは、ただ彼女をこのまま一人にしたくないと思ったからか、否。嫌われていても良いから彼女と一緒居たかったという自分の自己満足だ。
今まで一人の人を見ていてこんなにも胸が締め付けられた事なんて無い、今まで一人の人と一緒に居てこんなにも幸せだった事なんて無い。彼女だったから、リンだったからこんな気持ちになれたんだ。
ああ、そんな言葉を並べても、伝わらなければ只の雑音に過ぎないのに。ごめん、だからこれからの行動は自分の自己満足だけれど、これだけだから許して下さい。

「……ごめん」
「っ!?」

掴んでいた彼女の右手をぐいっと引っ張り、こちらに引き寄せれば。そのままリンはレンの胸の中に収まり、そっと抱き締めた。ぎゅっ、と。もう離さないとでも言うように強く抱き締める。
彼女の体は予想以上に柔らかくて小さくて、そしてとても心地良かった。慌てて離れようとする彼女を逃がさないように強く、それでも壊れないように優しく包み込む。
夕暮れのオレンジ色が二人を包み込み、寒い筈の空気の冷たさなんて忘れてしまって。腕の中にある愛しい愛しい小さな少女に、そっと再び謝った。
ごめん、ごめん。
そう呟く言葉と言葉がじわりと沁みて、唇をそっと噛み締める。そう、これで終わりにするから。もう、これでもう諦めるから。
いつの間にか流れていた涙が頬を濡らした。そんなレンに疑問を感じたのか、リンはぴたりと動きを止めて小首を傾げて顔を覗き込む。
そんな彼女の肩を持ち、向き合うような形になれば。レンは意を決したような、終わりを覚悟したような表情で目と目を合わせた。

「鏡音さん、ずっと好きでした。いや、これからもずっと好きです」
「……え?」
「今までずっと言えなかったけど、ちゃんと言っておきたかったんだ」
「鏡音君…あ、あた」
「大丈夫だよ、もう答えは分かってるから」

ありがとうございました。
そう言って、深くお辞儀をする。
今までこんなに幸せな気持ちにしてくれて、そして素敵な恋をありがとう。そんな言葉を込めてお礼を言い、そっと彼女の横を通り過ぎた。その時だった。

ぎゅっ、と服の裾を引っ張られて、思わず立ち止まる。ゆっくり振り返れば、其処には顔を俯かせている彼女。表情は分からないが、それでも彼女の必死さは伝わってきて。
ああもう期待してしまうじゃないか。
先程期待して拒否されたばかりだというのに、頭の中では自分の都合の良い結末を想像してしまう。諦めるなんて簡単に出来ないんだと改めて理解する。こんなにも彼女に溺れている自分に脳内で小さく苦笑。
そしてゆっくりと振り返れば、突然左頬に痛みが走った。
すっぱーん!
と、乾いたようなとても良い音が、学校内で反響する。レンは叩かれた左頬を左手でさすりながら、丸くなった目でリンを見れば。
彼女は涙を目に溜めて、真っ赤になった顔で睨み付けた。

「ばっ、馬鹿っ!鏡音君は馬鹿だよぉ!」
「…っ、え?」
「自分の言いたい事だけ言って勝手に帰ろうとするなんて、そんなの……ズルい」

あたしも逃げた事は謝る、でも。あたしの気持ちだけでも聞いてほしかった。
鼻を啜り、嗚咽混じりにそう叫ぶ彼女の言葉が胸に突き刺さり、言葉が出てくれない。
そして、ごめんなさいとリンはそっとレンの服の裾から手を離し、目を伏せる。何か吹っ切れたのか、彼女は小さくだが、少しずつ自分の気持ちを口にしていく。
先程メアド交換を拒否したのは、怖かったからだと彼女は言った。これ以上勝手に期待して迷惑を掛けたくなかった、いや違う。こんなに幸せな気持ちになって、これ以上に沈んでしまうのが怖かった。鏡音君は人気だから、あたしなんかじゃ適わないし、これ以上期待なんかしたらもう忘れられなくなる。それが怖くて拒否したけれど、そしたら今度は胸が痛くて辛くて涙が止まらなかったと、彼女は静かに呟いた。
レンはそんなリンの両手をそっと握り、互いにごめん。と囁き、ありがとうと顔を向き合った。

俺達は互いに期待し絶望し、そしてまた期待して今がある。そして互いに勝手に思い込んでしまっていた、ただそれだけなんだ。
互いに臆病すぎて、それでもそれが恋ってやつなんだと、そっと微笑みあった。
リンは、先程のレンの告白に本当の答えを告げる為に目を細め。あたしも好きです、大好きです。と、答えた。
レンはそんな彼女の手のひらを握る力を強め、その温もりを確かめるように繋ぎ止める。

「ありがとう」
「うん」
「好きだよ」
「うん。あたしも、好き…」
「キス、していい?」
「うん……って、え?」

オレンジ色の夕日が二人を祝福するかのように包み込み、そこから伸びた影がそっと重なる。そして互いに微笑み合い、手のひらはもう離れる事の無い二人の関係を表すかのように、強く繋がっていた。
後で知った事だが、今日は偶然にも二人の誕生日で。そんな偶然にも、こんな幸せにも、全てにおいて感謝する。
ハッピーバースデー、愛しい人。
ハッピーバースデー、俺達の恋。




僕はただきみの手を握って、きみは黙ったまま頷いて。




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2010/12/27
鏡音誕生日おめでとう!
ありきたりな話ですが、二人が幸せなら何でも良いのです^^
ずっと愛してる!



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