どうしてリンは男の子に生まれなかったんだろう。
それは小さい頃からずっと聞かされていた言葉。そんな事言われても、生まれる時に性別なんて選べないのだから仕方がない。
自分の両親は至って普通の人間だ。只単に子供は男の子が欲しかったのだが、その期待も裏切り、女の子であるリンが生まれた。ただそれだけだ。
それでも第二の子を生まなかった理由は、母親の体調が悪くなったから。元々体は良くなかったらしく、医者にも激しい運動はもうしてはいけないと言われ。だから、親の期待を裏切ったリンが男の子として育てられてきた。
昔から男物の服や玩具しか買ってくれなかったし、女友達の一人が可愛い人形を持っていたのでリンもそれが欲しいと言えば、男でしょう!と怒られた。なので今まで彼氏なんてできた事無いし、男の子として生きる事が一番の親孝行なのかもしれないとさえ思ってくる。まぁ、学校では性別偽装なんて出来ないので、学校だけが女の子である自分に戻れる唯一の時間だった。
それでも周りの女の子達が嬉しそうに可愛い服を買ったとか彼氏ができたとか言っているのを聞いても、全然羨ましくもなくなってきて。それは慣れか、諦めか。そんな事など分からないが、それでも少しだけ普通に女の子をやっている子達に憧れていたのかもしれない。


はぁ、と出てきた溜め息が冷え切った空に刺さり、白くなる。
学校が終わり、家に帰った後すぐに着替えて、やって来たのは両親の経営するお店。この繁華街の中でも一際目立っているその店は、わりと繁盛しているらしい。それでもまだ営業時間を過ぎていないのか、物静かだ。
なぜリンがこんな所に足を運んだのかと言うと、今日両親に来なさいと言われたから。本当は行きたくなかったし、こういう所は基本的に苦手区域なので躊躇ったが、それでも両親に逆らえない自分の弱さに笑いさえ出てこない。何の為に呼ばれたのかは分からないが、嫌な予感しかしない事は明白で。
リンは一層溜め息を深く吐き出しながら、そっと足を踏み入れようとした。その時だった。
丁度中から人が出てきて、顔面衝突。鈍い音と額の痛みに顔をしかめながらも、反射的にすみませんと謝れば。目の前の彼は、大丈夫だという事と同時にそっちは大丈夫かと額をさすりながら小首を傾げる。リンはそれに頷き、そっと彼に目を向けた。
彼は派手な金髪を後ろで軽く括り、スーツ姿。背はお世辞でも高いとは言えないが、とても整った容姿をしている。この店から出てきたというのならば、確実に彼はここで働いているのであろう。
そんな事を考えていれば、彼は突然リンの手を取り、そっとエスコートするようにニコッと綺麗な笑顔を作った。その動作にリンは慌てて首を横に振る。

「っ、僕は客じゃないです!」
「え?客じゃないんですか?…それに女の子なのに自分の事を僕って言うんですね」
「…っ!し、失礼します」

驚いた。
自分で言うのも何だが、今の姿は何も知らない他人から見れば男の子そのもの。
それなのに直ぐに女だと理解され、驚いて心臓が鳴り止まない。どきどきと煩い鼓動に、やっぱり彼はプロだなと感心してしまう自分も居て。リンはそれを誤魔化すように顔を左右に振って、そっと彼の横を通り過ぎ、店の中へと入っていった。

中は相変わらず派手な仕様で、高級そうな物に囲まれている感覚。中を見渡せば、そこには開店前に待機しているホストがいる。
そう、リンの両親が経営している店というのは所謂ホストクラブだ。
どうしてホストクラブを立ち上げたのかだとかの理由なんて分からないが、両親はその仕事を誇りに思っている。
リンは、何だか自分が場違いのような気分で、気が気でない。ずっと店内を見渡していれば、隣の部屋から両親がやって来た。そしてリンが来ている事に気が付き、こちらに大して急ぎもせずやって来る。
父親はこのホストクラブのオーナーで、母親は会計等をこなしている。そんな二人が、ただの学生であるリンを仕事場に呼ぶ理由が分からない。もしかして清掃の手伝いでもしろというのであろうか。
そんな事を考えながらも、リンは溜め息混じりに用件を聞けば。
一瞬耳を疑った。

「は?」
「だから、リンには今日からこのホストクラブで研修生として働いてもらうからな」
「はぁぁぁぁぁああ!?んなの聞いてねぇよ!」
「もう決まった事だ。リン、今日からここのナンバーワンのレンに色々聞いてもらうんだぞ」
「え、ちょ!まっ、」

意味わっかんねーよ!
そう叫ぶ前に、両親がここから立ち去っていく。
そういえば昔、両親の店で働く約束をしたようなしてないような。そんな事を思い出しながらも、頭の中ではこの理不尽な状況に葛藤している。
いくら男の子として生きてほしいからと言っても限度がある。リンは正真正銘の女の子なので、絶対いつかボロが出てしまうに違いない。バレてしまえば働く事も出来なくなるかもしれないと一瞬期待の言葉が思い付いたが、どうせそれでも両親が辞めさせてはくれないと気付き、頭が痛くなってくる。
つまり、ここで働くホストや客に気付かれないように働けという事か。ああ、頭が痛い。
そしてふと後ろを振り返れば、にこにこと満面の笑顔で壁にもたれ掛かっている先程の金髪の男の子が目に入った。そして、彼が口だけで"よろしく、リンちゃん"と言ったので、彼がここのナンバーワンであるレンなのであろう。
両親も流石に最早バレてしまっているだなんて思わなかったのか、寄りによって彼に教えてもらえだなんて。
ああ、頭と胃が痛い。帰りに頭痛薬と胃薬を買おう。




人生ピンチばかりです




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ホストレン×男装ホストリン
イケレンなのかマセレンなのか不明。これからリンちゃんは苦労していくと思います。




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