(レン視点) そっと握った手のひらから伝わる彼女の温もりに、そっと頬が綻ぶ。 十二月後半、今日はクリスマス。街はクリスマスの雰囲気を醸し出しているのに、何だか素直に喜べない。 一応女友達にも一緒に過ごそうと誘われたのだが、このイベントは好きな人と過ごしたかったので、断ってしまった。友達には簡単に話し掛ける事ができるのに、好きな子になるとどうしても躊躇ってしまう。 レンは、同じクラスで同じ名字の鏡音リンに恋をしている。 彼女とはあまり話をした事がなく、もっと話をして仲良くなりたいとずっと思っていた。それに、彼女はモテる。自分の彼女の居ない友達の大半は、リンが好きと答える。敵が多いのに、話すらまともにした事がないだなんて、万事休すじゃないか。ああ、考えただけで悲しくなる。 そんな寂しいクリスマスを今年も過ごすのかななんて思っていれば、店に入ろうとして躊躇っている彼女を見つけて。気が付いたら声を掛けていた。 そんな先程までの事を思い出しながら、きちんと会話できていたかな、とか迷惑って思ってないかな、とか。そんな不安を感じながらも、ぎゅっ。と手のひらから伝わる彼女の体温にどきどきと心臓が跳ねる。 手を握った瞬間、リンは怯えたように不安そうな目の色をしていたが、彼女は諦めたのか否か。恥ずかしそうに、手を握り返してくれた。その一つ一つが嬉しくて嬉しくて。 店内は外から見えたとおり、カップルばかりで。その中にきちんと溶け込んでる、そんな風に思うだけで顔の筋肉が緩む。 するとリンは、あ。と欲しいものが見つかったのか、そちらへと足を進めた。手は繋いだままなので、勿論レンもその後をついて行く。彼女がそっと手にしたのは可愛らしいキャンドル。 「これがほしいの?」 「う、ん。へ、変かな…?」 「全然、鏡音さんらしくて可愛いよ」 「……っ!あ、あありがとう」 思わず零れた本音に、赤くなっていく彼女の頬。本当に可愛いな、と頭の片隅で思いながら、レンはそっとリンの手に持つキャンドルの色違いの物を手に持った。 そしてリンの持っているそれを貸してもらい、彼女の手のひらをそっと離す。離す瞬間とても息苦しくて、ずっと離したくないという我が儘が頭の中を駆け巡る。それでもそんな我が儘をしていては彼女に迷惑が掛かるし、目的を実行する事も叶わない。 目を丸くさせながらも不安そうな彼女を安心させるように、微笑みかけ。レンはそのまま踵を返し、レジへと向かった。店員さんにその二つのキャンドルを渡せば、彼女への贈り物ですか?と聞かれたので、レンは微笑み。 「 」 店員さんに頑張って下さいね、と一言言われ小さく、それでもはっきりと頷いた。 そしてお金を払っている時に、やっと気付いたのか、リンが慌ててレンの所へ来る。そして、本当に申し訳無さそうに戸惑うものだから。それが可笑しくて可愛くては愛しくて。 いつになったら告白できるかな、なんて自分に問い掛けながらも彼女の頭をそっと撫でる。そして不安そうなその眼差しに微笑みかけ、俺からのクリスマスプレゼント。と、丁度包装もきちんと出来て店員さんから渡された、そのキャンドルの一つをリンに渡した。 彼女はぎこちなくそれを受け取れば、申し訳無さそうなそれでも本当に嬉しそうにはにかんで。こちらまで幸せな気分になってくる。 彼女は知らない。こんな俺達を、周りはどう思うのだろうか。そう、周りから見れば普通にカップルに見えるであろう。 初めに店員さんに彼女かと聞かれた時、すごく嬉しかった。 そんな幸せな気分を味わいながら店から出れば、彼女は"ありがとう"と、とびっきりの笑顔をくれた。 ああ、なんて幸せ。 本当のカップルになるまであと何日かな、なんてね。 「彼女への贈り物ですか?」 「彼女になる予定の子への贈り物です」 怖がるきみの手を握った、僕の下心をきみは知らない。 |