(リン視点)


十二月後半、今日はクリスマス。街はクリスマスの雰囲気を醸し出しているのに、何だか素直に喜べない。
隣を歩く彼氏も居なければ、クリスマスに付き合ってくれるフリーの友達も居ない。辺りを見ればお熱いカップルばかりで、一人でケーキを買うために歩いている自分が惨めに思えてくる。
こんな事ならば、ケーキなんて我慢すれば良かった。

リンはどこにでも居る、普通の学生。そして今、恋をしている。
その相手はクラスが同じで、偶然にも名字も同じ。その話題で少しなら話をした事があるのだが、彼が目の前に居るだけでどきどきと緊張してしまい、うまく話す事ができなかった。それ以来、あまり話をした事がない。
それでもこの胸のトキメキは本物で。
今はもう冬休みに入ってしまったので、来年まで会えないのがとても悲しい。まぁ、会ったとしても話なんてできないのだが。
彼はモテるのだ。よく告白されたという事を聞くし、不可抗力だがその場面を目撃した事もある。あの時は心臓が止まるかと思った。未だに付き合ったという噂を耳にしていないが、それも怪しい。
そんなあやふやな所に居る彼に告白をして彼女が居ますで振られるだなんて賜ったもんじゃないし、それ以前に告白する勇気すら乏しい。


リンは溜め息混じりに、綺麗なイルミネーションの飾られた店を見れば、そこで小さな可愛らしいキャンドルに足を止めた。
寂しく一人で過ごしても、少しくらいクリスマス気分を味わっても良いよね?
頭の中で苦笑しながらも、リンはそっと店の扉を開けようとして、ふと足が止まる。
ここからでも簡単に分かる程、店内はカップルでいっぱいだった。明らかに場違いな自分に、笑いさえも出てこない。そっと先程の可愛らしいキャンドルに目を向けて、そっと閉じて。
開けようとした扉から、ゆっくりと手を離し、家に帰ろうと踵を返した。その時だった。

「あれ、鏡音さん?」
「……っ!」
「入らないの?」

あまりの予想外な人物に、思わず息が詰まる。そう、先程まで頭の中で考えていた彼、鏡音レンだ。
早く何か言葉を返さないと嫌われちゃう、そんな事を考えても言葉が喉を通ってくれなくて。目を丸くさせて口をぱくぱくさせていれば、彼はそっとカップルだらけの店内を外から覗いて、なるほど。と納得したように頷いた。
そして、もしかして鏡音さんって彼氏いないの?と少しだけ期待の眼差しで小首を傾げるものだから、リンは小さく頷いて。そしてこの流れに乗るように、鏡音君も彼女いないの?と恐る恐る聞いてみる。
言った後で、失礼だったかなと少しの後悔。それでも前々から気になっていたので、この話の流れに身を任せて。

「彼女はいないよ」
「え、あ…そうなんだ」
「あ、そうだ。鏡音さん、この店に入り難いんだったら、俺と一緒に入らない?」
「っ、え?」
「俺も買うものがあるから一石二鳥だって、ほら」

彼に彼女がいないという事実にほっとしたのも束の間、突然の彼の言葉に目を見開いた。
手を差し伸べる彼の顔と手を交互に見て、顔が一気に火照っていく。
これは手を握って、ということなのだろうか。いやいや、でもあたしなんかが手を握っても良いのだろうか。それでも彼の好意を断るのも気が引けるし、これはチャンスだと思う自分も居るし、どうすれば良いのだろうか。
あんなに遠くて、生きる世界が根本的に違っていると思っていた、そんな彼。
距離が有りすぎて、追い付こうにも追い付けず、周りの人達に抜かれていく。こんなにかけ離れた存在だったのに、これはどういった転機が起こったのだろうか。
リンは恥ずかしさのあまりこの場から逃げ出したい衝動に駆られながらも、恐る恐る手を動かし。そっと、彼の手のひらの上に自分のものを乗せた。
目の前の彼は嬉しそうに微笑み、ぎゅっと手と手を握り締める。
ああ、なんて幸せ。
リンはこの幸せを噛み締めるように、そっと微笑んだ。




手をつないだ。きみに一歩近づけた気がした。




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