雲が薄くかかった夜の黒い空に、黄色い丸がぽつんと映っている。それは何の影響も受けないかのように、淡々とその場を照らし続けている。まるで闇に浮かぶ、一つの光のような。
そんな月を、サスケは宿の窓から、そっと見つめていた。

あの月を見ると思い出す、あの頃の事。まだ一族が滅亡していなかった、幸せだった頃。
いつも隣には両親が居て、目の前には兄さんが居て。兄さんは俺にとっての憧れであり、目標でもあった。兄さんの背中は大きくて、それを見ながら付いて行くのが何よりも大好きだった。
そして、兄としてではなく一人の男としても大好きだった。

「……イタチ…」

月明かりが照らす、窓の外にポツリと漏らすと、その声は深い闇に呑まれるかのように消えていった。
夜は嫌いだ。自分の望むものが闇に消えて分からなくなってしまうから。それでも、今はそんな夜に感謝する。この感情は、消えて無くなってしまえば、自分は迷わなくても良いのだから。
そう、兄は自分の手で殺めなければならない宿命なのだ。否、運命とでもいうのだろうか。それでも、日が進む度に痛む胸が、本当は殺めたくなどないと言っているのだ。あの日から迷いは一切の棄てた、はずだったのにな。
サスケは溜め息と同時に少しだけ瞼を閉じる。
一昨日からずっと歩いていたので眠たかったのもあるが、それ以上に昔を思い出す事ができたからという理由が大きい。

昔は、兄と一緒に居ない世界なんて想像がつかなかった。
いつも隣には兄がいて、そこが自分の特等席だと思い込んでいた。
自分が一人で悩んでいればイタチが声をかけてくれるし、自分が一人で落ち込んでいればそっと隣に座り頭を撫でてくれる。
それが当たり前なのだと、何も知らなかったあの頃はずっと思っていた。
そして、それは今も……。

「サスケ。」

聞き覚えのある懐かしい声がする。そして、それと同時に懐かしい手が頭を撫でている。
しかしサスケは瞑ったままの瞳を開けようとはしなかった。
もし開けてしまえば、今までの決意と決断を簡単に破棄してしまいそうだったから。
固く閉ざした瞳のまま、サスケは目の前に居るであろう人影にそっと手を伸ばした。
(これは夢だ。夢、なんだ。だから、今だけは……。)



想いは喉の奥に




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予定以上に短くなってしまいました;
ちなみに分かりきっているかもですが、最後にサスケの頭を撫でているのはイタチです。
我慢できなくて鬼鮫をおいてサスケのところに来ちゃいました。
きっと今頃、鬼鮫はイタチを捜索中です(笑)




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