今日は自分達に任せられた任務はない。闘うことが好きなデイダラにとって、これほど暇な事はないであろう。
粘土で作品を作る事も良いのだが、術が目立つという理由で、せっかくの作品を爆発させる事すら叶わない。未完成の作品をたくさん作るだけなのは、芸術家として許せないのだ。

デイダラは深く溜め息をつきながら、作品を作れない自分とは逆に、大好きな傀儡の手入れに没頭しているであろう、己の相方兼恋人の居る部屋へと足を進める。
彼は一度傀儡の手入れに集中すると、周りの声なんて聞こえなくなる。まぁ、それは自分も同じようなものだから割り切ってはいるが。
だが、自分は作品を手掛ける事ができないというのに、己の趣味に没頭している恋人の事を思い描けば、生まれてくるのは嫉妬と妬み。
これが只の八つ当たりだということは百も承知なのだが、止められる事ができなかった。

コンコン、と恋人であるサソリの居る部屋のドアを叩けば、案の定返事は返って来ない。
無視されるか罵倒されるかは予想の範囲内だったので、怒られる覚悟で邪魔してやろうと思い切りドアを開けた。
彼が鍵をかけていなかったのには少しだけ驚いたが、ドアを開けた目の前の情景の方が衝撃的で、怒鳴ろうとして開けた口からは声が通らず、だらしなく開きっぱなしになってしまう。

「あ、……ありえねぇ」

目の前のサソリは傀儡を手入れするためにヒルコから出てきており、あろうことかそのヒルコを背もたれにして眠っているのだ。
確かサソリは人傀儡なので、睡眠なんて必要ないはずだ。しかし、現に目の前ですやすやと一定の呼吸を繰り返す姿は眠っているとしか言いようがない。
デイダラは何かの誤作動が起きたのだと勝手に解釈をし、気配を消してゆっくりと部屋の中へと足を進めた。

彼の部屋は、傀儡人形ばかりで薄気味悪い。それが部屋の中へと入った第一印象。
しかし、よく見てみると人形やその部品などが沢山あるのに部屋の中は綺麗に片付いている。足の踏み場もない自分の部屋を思い出し、少しだけ見習わなくてはならないなと思い、溜め息をついた。
すんなりと眠っているサソリの前に着けば、ゆっくりとしゃがみ込み。じっ、とその顔を見つめる。

まるでお人形のように、とても綺麗に整った顔。それでも生きた人間のような淡い呼吸に、少しだけ安心した。
その顔に触れてみれば、自分のように体温はなく。あぁ、やっぱり旦那は傀儡なんだな、と改めて感じる。
自分のように柔らかい肌ではないが、自分以上に柔らかい髪に指を通した。すっ、と絡まる事なく通る指に驚きながらも、愛おしそうにその様子を見つめる。
そしてそっと顔を近付け、唇と唇を合わせようとした。その直前で止めた。
(……何だか寝込みを襲ってるみたいで嫌だな、うん)
唇にしようとしたキスを彼の瞼に落とせば、そっと顔を離す。否、離そうとしたが離れなかった。
ぐっ、と後頭部あたりを支えられ、まさかと思い視線を目の前へと戻せば。
案の定、ニタリと怪しい笑みを浮かべたサソリと目が合った。先程までの綺麗な寝顔はどこへやら。
正直に言うと、彼と目が合った時は心臓が飛び出るかと思った。それでも先程までの行動は寝ていた彼は知らない筈なので、小さな安堵の溜め息をつく。
黙ってたら可愛いのにな、とその綺麗な瞳を何も言わず見ていれば、再び彼はニタリと笑みを浮かべた。

「……焦れってぇんだよ、餓鬼。」

そう言って、噛みつくようなキスをされる。
前言撤回。やっぱり可愛くない。
舌を絡めながらも、ムスッと顔をしかめていると、だんだんとサソリの笑みの意味が分かっていき。
(まさか、狸寝入りしてたのか…?)
なんでオイラは誤作動なんて馬鹿な勘違いをしたんだろう。
恥ずかしさと何かで徐々真っ赤になっていく顔を紛らわすために、がばっ、と思いっ切りサソリの首に腕を回した。



これは愛情の裏返し




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寝たフリをする旦那って、ありえないですね(笑)
しかし演技が上手すぎる。




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