ここは美術室。学校の授業も終わった後は、美術部が全面的に使用する場所。紙と絵の具の匂いが充満しており、その匂いに慣れて嗅覚が麻痺してしまったのか、俺は逆に良い匂いだと頭が認識する。
そんな室内で部員の皆が真剣に自分の作品を作っていく中、ペタペタとつまらなさそうに色を塗っているのは、2年生のデイダラ。彼は粘土を使った作品を作る事が好きらしく、それ以外のもので作らなければならない時はいつもつまらなさそうにしている。
だから、初めは嫌いだった。

部長であるサソリは、部員達の作品が入賞できるように指導する先生や、部員達のために部をまとめなければならない。
それなのに彼は入部しはじめの頃から、粘土以外の作品は作りたくないの一点張りだった。なのでここ一年間は彼に付きまとい、漸く粘土以外の作品も作るようになってくれたのだ。
たぶん、その一年間の間だったと思う。初めは先生に言われ嫌々と説得していたのが、だんだんと自ら進んで彼のところへ行きたいと思うようになったのは。
決してストーカーという訳ではないが、たぶん自分は彼…デイダラの事が好きなのであろう。なぜなら今、つまらなさそうにしている彼を見るだけでどきどきと強くなる胸の鼓動が治まらないからだ。

彼に好きと伝えたいが、言葉で言うのは恥ずかしい(何しろ、絶対嫌われている)。なので、いつものように少しづつ仲を良くしていこうとサソリはゆっくりと重たい腰を上げ、彼のところへと向かう。
ペタペタとだるそうに色を塗るデイダラの近くへ来て、そっと彼の筆を持つ手に触れた。
(さりげなく、さりげなく…!)

「下手くそ。こう塗るんだー……」
「余計なお世話だ、触んじゃねーよ!うん」
「……。」

自分なりに優しく教えてあげようとしたつもりだったのだが、ばっ、と勢いよく手を払い退けられてしまった。
周りにいる部員の女子は、部長に触られて羨ましいと嘆いているのだが、どうやら彼にとっては気に入らなかったらしい。
(何がいけないんだ?)

少し眉をしかめ、払い退けられた行き場のない手をそっと下ろす。するとデイダラは、まるで何事もなかったように色塗りを初めてしまった。
仕方がないので、そのまま自分も作品を手掛ける為に席へと戻る。
ぺたぺたと先程と同じように色を塗っていくデイダラを眺め、どうしたら振り向いてくれるのかを考える。彼を眺めながら手を動かしているため、ふとした時に己の作品へと目を通せば、がくっと肩を落とした。

そんなサソリを知ってか知らずか、なぁなぁと部員に話しかけるデイダラの姿が目に入った。それは先程までとは正反対の満面の笑みをしており、とても楽しそうだ。
彼が笑う姿が大好きで、ついついこちらも笑みが零れてしまう。
しかし、なんだ?このもやもやは。
大好きな笑みを自分以外の部員達に振る舞う姿に、だんだんと大きくなっていく苛々。自分には一度も向けた事のない姿に失笑し、ギリ…と握り締めていた筆が悲鳴をあげた。
そっちを向くな、こっちを見ろ。そんな笑顔で話すな、こっちを見て笑え。
俺だけに微笑みかけろ…!
ぱきんっ、と手の中で音を立てて折れる筆が、ぱらぱらと床へと落下する。

がたっ。

気付いたら体が勝手に動いていた。
勝手に動くだなんて理論的に有り得ないと思っていたが、こんなところで証明されるだなんて。そんなどうでもいい事を考えている間にデイダラの目の前で足が止まる。
そして彼に向けて、自信満々に口を開いた。

「デイダラ、俺と付き合え。」

一瞬の沈黙。
堂々としているサソリとは正反対に、デイダラは唖然としている。
もちろん、周りにいる部員たちも開いた口が塞がらないのか、口をあんぐりと開けて目を丸くしている。
そんな中、堂々と腰に手を添えて答えを待つサソリ、この状況とは不釣り合いな満足感を漂う顔をしている。そんなサソリの目の前で、はっ。とデイダラはやっと状況に理解できた。
すると突然きょろきょろと辺りを見回し、恥ずかしくなったのか急に頬を真っ赤に染め上げ。

「ば、ばっかじゃねぇの!うん」

と言い捨て、サソリの横を逃げるように通り過ぎた。
それを目で追えば、教室の出入り口をくぐって走っていく姿が目に入り。
当然の如く、サソリは肩を落とした。



気付いて、ハニー





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あれ、なんだこの中途半端さは。
萌えシチュをリクしていただいたのに、ただの報われないサソリ様になってしまいました。

フリリク感謝!



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