好きという感情は残酷だ。自分の意見なんて無視して、勝手に心を痛めていく。 そんな感情なんて芽生えなければ、こんなに悩まなくても済んだのに。 俺は、兄が好きだ。 好きといっても、トマトが好きとかおにぎりが好きといったものではない。恋愛感情で好きなのだ。 男が男を、しかも兄弟を好きになるだなんて、自分でも吐き気がしそうだ。それなのに、この感情は残酷で。 日に日に好きという想いが強くなっていくばかり。 今何してるんだろう、とか。彼女はいるのだろうか、とか。そういえばあいつの部屋って俺の部屋の隣じゃないか、とか。 馬鹿の一つ覚えのように、そういった事ばかりが脳内を支配していく。 (それでも、好きなんだ。) 兄は大学生だ。スポーツもできれば勉強もできる、所謂天才だ。 高校生であるが生徒会長を務める俺なんて足元にも及ばない。それは中学校へ登れば既に自覚はしていたし、承知もしていた。 しかし、心の奥底では嫉妬していたのかもしれない。それでも、その嫉妬が恋愛感情に変わったと認識したのはつい最近だった。 小さな事でドキドキとしてしまい、彼の唇を見ればキスをしたくなるし、彼の裸を見ればそれ以上の事だってしたいと思ってしまう。 サスケは首を横に振り、そんな事ができるはずない。と、肩を落とした。 「サスケ、」 「うわぁっ!」 がたんっ。 今まさに頭の中で噂していた人物の登場に驚いてしまい、座っていた椅子ごと床に背中からダイブしてしまった。 まさか来るとは思っていなかったので、目を丸くさせながら、ダイブしたときに打った頭を抑える。 「サスケ、大丈夫か!?」 じんじんと痛む頭を抑えていれば、呆気に取られていたイタチが我に返ったのか、勢いよく側に駆け寄ってきた。 それは素直に嬉しかったが、それとは別に緊張もしてきた。只の兄弟なのだから緊張なんてするだけ無駄だと分かっていても、無意識のうちに彼を意識してどきどきと緊張してしまう。 痛むか?と心配の色をした顔でサスケの目を直視しながら、打った頭を柔らかくさする。 ずきっ、と痛みが走ったが、今はそれどころではない。ばくばくと爆発してしまいそいな心臓の方が問題だ。 聞こえていないだろうか、という心配さえも忘れて。目の前にいる兄との距離の近さに頭の中はぱんぱんだった。 返答もせず、只ひたすら頬を真っ赤に染めて目を泳がせていれば、何を思ったのか。イタチが突然抱き締めてきた。 それは強く、それでも壊れものを扱うように優しく。 突然の抱擁に、ぱんぱんだった頭はオーバーヒートしてぐちゃぐちゃになり、思考が停止してしまった。その時だった。 どきどき、どきどき。 イタチの胸に顔を埋めていれば微かに聞こえる心臓の音。初めは自分のものと思い恥ずかしかったが、どうやら違うらしい。 サスケは胸に埋めていた顔を横に向けて、彼の胸に耳を当てる。 どきどき、どきどき。 (あぁ、やっぱり。) 自分より煩いその音が心地よくて、そのままそっと目を閉じた。 そっと耳を澄ませて ------------------------ 実は、好きだと伝えにサスケの部屋に来たけどタイミングを見失ってしまったイタチさんです。 そして、また次の機会に伝えようと思ったけど、我慢できず抱き締めてしまいました。 ……補足が長くなりました← |