シンとした風のない空間に緑が広がっている。自然の宝庫ともいえる美しい広大な緑は、数十キロに渡り澄み切っている。
小さな動物達の住処である、その緑は己の存在を主張するかのように聳え立っている。
そんな森の木々の一部がざわりと揺れた。
それをじっ、と見つめる。

今日は災難だ。
ノルマである尾獣は一匹も見つからないし、訪れた街では暁だからと襲われるし。今日も野宿だな、と落胆の溜め息がでてくる。
襲われた時、一緒に居たサソリにお前の術は派手すぎると言われ、襲ってきた奴らは路地裏へおびき寄せてから全てヒルコの尾で仕留めた。そのまま穏便に街を後にしようと思った矢先に、運悪く一般人に見つかりそいつの悲鳴により状況が悪化。
仕方がないので建物を爆発して道路を防ぎ、その間に街から逃走したのだが案の定追っ手がきて、これは叩くしかないなという判断をし、今の状況になっている。

自分が始末する、と一言だけサソリに言い森の上へ飛んできた。飛ぶ際にサソリの舌打ちが聞こえてきたが、気のせいにしておく。
鳥粘土の上で左目にしているスコープ越しに追っ手の数を数えれば、数十名の忍びを確認する。数で攻めれば例えS級犯罪者が揃う暁でも仕留めれると考えたのだろう。彼らの考えがすぐ理解でき、滑稽だと嘲笑うかのようにデイダラは鼻で笑った。
そして、持ってきておいた作品を取り出す。それは粘土でできた人形の形をしており、小さいながら不気味さを漂わせている。デイダラはそれを十八番と呼んでおり、チャクラレベルC3の爆発力に自信のある作品だ。
これを使えば、小さな街なんて全て消し去ってしまう程の爆発力をもっており、隠密な任務には不向きなので最近は全く使う機会がなかった。
なので堂々と使える今の状態に、とても歓喜極まりない。

ぼんっ、という音と共にデイダラの身長より大きくなった彼の十八番は、今から少なくとも数十名の人間を殺す事を承知しているかのように相変わらず不気味な雰囲気を漂わす。
早く爆発させて、完璧な芸術作品にしたい。こんな思いもあってか、今からこの広大な緑を消し去るという事に迷いは一時もなかった。

一瞬。そう、一瞬だった。
その十八番である粘土を落として数秒もしないうちに、緑が消し飛んだのは。
自然の芸術ともいわれる広大な緑は、そこに居た数十名の人間を巻き込み、爆発音とともに煙が瞬く土を覗かせた。爆発こそが芸術だと感じるデイダラにとって、消し去るこの瞬間に感動を貰ってしかたがない。
儚く散りゆく様は、とても綺麗で身震いがする。

もう森とは呼べなくなったそれに背を向け、待たせていたサソリの側へ着地する。
彼はヒルコの中に本体を潜ませているので表情すら分からなかったが、待つのも待たされるのも嫌いな性格の為か雰囲気で怒っていることが分かった。それをいつものように受け流し、再び尾獣探しに専念しようと一歩踏みしめた時。
背中から人の気配を拾った。まさか殺しそこねるなんて、と自分へ失望しながらも素速く振り向けば、それと同時に真っ赤な液体がシャワーのように自分の顔へと吹き付けてくる。
どぷどぷと吹き出る血しぶきは次第に勢いを消してゆき、先程の爆発からの生き残りであろう、その忍の喉に刺さったそれを引き抜くと同時にその場へ崩れ落ちた。

「いつも油断するなと言っているだろーが。心配させんじゃねぇ。」

崩れ落ちた忍の喉に刺さっていたのはヒルコの尾で、付いてしまった血を振り払うように長さを元へ戻す。その様子をじっと見つめ、サソリの先程の言葉を脳内で何度も復唱すれば、自分を心配してくれていたのかと漸く理解した。
べっとりと顔から腕にかけてこびり付いた鉄臭い血が重力に従いどろりと下へと流れるなか、背を向けて歩き始めたサソリを眺めれば。
ふわりと笑みを漏らし、彼の背へと飛び込んだ。



戦場の中の小さな幸せ





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サソリはデイダラの事を早死にするタイプだと思っているので、戦闘の時は人一倍心配していたら良いな、という話。




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