暑くも寒くもない丁度良い気温の中、室内だというのに太陽の光だけが鬱陶しい程に目を眩ませる。ずっと同じ方向を眺め、思い出したように冷めきってしまった紅茶を啜る。今、サスケは小さな喫茶店でイタチの事を待っているのだ。 別に待ち合わせをしているという訳ではないが、ただ会いたくなった。これで待つ理由は十分であろう。 サスケとイタチは唯一無二の兄弟だ。両親は小さい頃に交通事故で亡くし、今まで両親の残した遺産と保険金、あとは兄のアルバイト代で過ごしてきた。欲しいものを我慢した数なんて数えるだけで億劫になるし、今では我慢することが普通だと思ってしまうほどに慣れた。 ただ、家に帰れば昔のようにおかえりと言ってくれる人が居ない事だけは未だ慣れないでいる。もう高校生だから大人だと兄には大口を叩いているが、やはりまだ子供だなと改めて感じ、深く溜め息をついた。 カラン、カラン。 また、お客さんが入った。サスケはこの喫茶店には初めて入ったのだが、一分に一人は必ず来てるんじゃないかと思ってしまう程の店の回転が早く、この店の知識がないサスケでもここが人気なのだとすぐに分かる。 サスケは再び溜め息をついた。 正直言って、人がたくさん集まる所は好きではない。煩い場所より静かな場所の方が好きだし、なにより話しかけられる事が多いから。 それでもサスケがこの場から動こうとしないのは、ここがイタチのアルバイト先だからだ。 彼はホールの仕事をしているらしく、先程から様々なテーブルへと行ったり来たり。 因みに、サスケの所に来たホールの方はイタチではなかったから、彼はサスケがこの場に居ることを知らないであろう。 再び紅茶を啜りながら、そういえば彼の仕事姿を見るのは初めてだな、なんて思い。いつもは俺に優しくて艶のある笑顔を向けるのだが、今は柔らかくて真剣さを含んだ笑みをしている。 こんな顔もするんだな、なんて思って。自分の知らない彼を見た気持ちになり、少しだけ嬉しくなった。 ……それでも、やっぱり見てるだけじゃ物足りなくて。 イタチのバイトが終わるまで残り一時間。彼の働く姿を見ているだけで幸せなのだが、流石に二時間もの間こうしていると寂しくなってくるのが本音で。 何もする事がないので、パチリと携帯の画面を開いた。すると二件メールが届いており、そういえば朝から開いてなかったなとメールボックスを確認する。 一件目は同級生のナルトからで、今日遊ぼうという誘いのメールだった。それは朝に届いており、既に赤くなった夕方の空を見て心の中で謝り、後で返信をしようともう一件のメールを開いた。 (……え?) メールを開いてみて驚いた。 それはちょうどサスケがこの喫茶店に入って紅茶を頼んでいる頃に届いており。イタチからのメールであった。 メール返す暇があったら、きちんと仕事しろよ。といった悪態すら思い付かず、メールの内容に釘付けになってしまった。 来てくれて、ありがとう。 たった一文であるのに、嬉しくて嬉しくて。 思わずイタチの方へ顔を向ければ、彼の口元が微かに微笑んだ、そんな気がした。 (彼を待っているつもりが、逆にメールを見るまでの間彼を待たせてしまっていた。) (待ちぼうけはお互い様。) 待ちぼうけ ------------------------ 相変わらず、最終的にナルトが可哀想。 |