夏の暑さや秋の暖かさも消え、空気が冷え切るこの季節。木々は葉が落ちて裸になり、見ているだけで寒そうだ。あちこちに生えている雑草は儚げだが、しっかりと地面に根をはり、ゆらゆらと風に揺れている。
そんな中、ぽつり、ぽつりと落ちる雨粒は乾燥した地面に染みを作っていく。一粒落ちれば吸い込んでいくように、じわりと染み込み、そしてまた一粒とその連鎖を繰り返す。
じわり、じわり。
染み込みきれなくなった雨粒は、土の上に溜まってゆき、それが水たまりとなる。
だんだん大きくなってゆくそれに、ひらりと紙が落ちた。
その紙は雨水に抵抗することなく浸透していき、まるで地面のように深く染み込んでゆく。

その紙の一部始終を見て、ふと後ろから小さな溜め息が聞こえてきた。振り返ると、始めに見えるのは青い空と同じ色をした髪。そしてその髪によく映えている花の髪飾り。小南だとすぐにわかった。
小南は冷たい風に髪の毛を揺らせながら、再び溜め息をつく。

「あぁ、この紙はもう使い物にならないな」

なぜかその言葉が納得いかなくて。ゆっくりと水たまりに落ちた紙を拾い上げると、そのまま水たまりの隣に置いた。
その紙はもう水を吸い込まない筈なのに、降ってくる雨を静かに受け入れている(ように見える)
それが何故か無性に嬉しくて、嬉しくて。

「使い物にならない訳がない。これは、まるで俺とお前だからな」

(紙は雨を受け入れやすく、また雨も紙を受け入れやすい)
(それが、俺とお前を表しているのなら、)

「……ばか。」


ばっと立ち上がる小南の頬が、微かに色付いていたのが分かった。その時には、自分の体が勝手に動いていた。
ぎゅっ、と背中から抱き締めその肩に顔を埋める。とても良い匂いで、とても安心できて。
何も言わず、頬を染める彼女に、無意識のうちに自分は口元を緩めていた。



愛しき姫君







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