ころころと口の中で転がる甘い甘い飴玉。味は苺ミルク。甘ったるいそれをころころと舌で器用に転がせば、またじわりと染みでてきた。
飴玉は好きだ。ガムのように噛めば噛むほど味が無くなったりしないし(飴玉は噛めば噛むほど、砕けるのだが)、甘さが口の中で染み渡り舌の上でだんだん小さくなって溶けて無くなっていく感覚が好きだから。
デイダラは昼食を済ませ、いつものように飴玉を口の中で転がせながら指で器用に赤色のボールペンをくるりと回した。

デイダラは高校教師という職に就いたばかりの研修中の新米教師だ。生徒の前に立てば、まだ緊張もするし舌も噛んでしまう。
特に最近は生意気な生徒に懐かれてしまって、肩が凝るどころではない。デイダラは溜め息をつき、ボールペンをカチカチと出したり戻したりする。
本当は、昼休みにぼーっと過ごす程仕事が暇な訳ではない。寧ろ覚える事が多すぎて手一杯な状態だ。
それでも今のうちに資料等をまとめるなんて事はしないのは、いつもこの時間帯になったら問題児がやってくるからだ。

その問題児は入学した頃から問題児だった。髪は赤色だし、先生は見下すし。態度はでかいし、喧嘩はするし。無駄にモテるし、イヤミに勉強は出来るし。
後半は個人的に気に食わない部分だが、大半で問題児だということが理解できる。

デイダラは口の中で飴玉をころっと転がし、溜め息をついた、その時。ずしっ、と背中から重みを感じた。
背中に乗った人物に予想が付きすぎて振り向く事さえも億劫。辺りにいる他の先生方は、いつもの風景に肩を竦めるだけだ。
デイダラは振り向いたりせず、溜め息混じりに声をかけた。

「やっぱり来たか、うん。」
「やっぱりって、……期待してたのか?」

問題児、否。サソリは小馬鹿にするように、にたりと笑みを浮かべた。
このような挑発はいつもの事なので、はいはい。と流すように手を軽く振る。すると、ぎしり。と背中に乗る体重に力が加わり椅子が軋んだ。

「……っわ!」

思わず驚いてしまい、小さな悲鳴が漏れる。
デイダラは文句を言おうと少しだけ顔を振り向き、目を見開いた。
サソリの顔がデイダラの目と鼻の先にあったからだ。
そして、じわりと先程より距離が縮み、サソリの口元がデイダラの耳辺りに近付く。
思わず、どきりと胸の鼓動が高鳴った。デイダラは首を浅く振り、それを誤魔化せば。彼の体が密着しているからか、否か。
ばくばくと煩い心音が、彼と自分のものと重なってより一層煩さが増す。それと比例するように自分の顔が火照ってくるのが分かった。
あまり先生をからかうな。と一言、言ってやりたかったが、それをする余裕すらなくて。
辺りの先生方に助けを求めるように、目を向けたが完全に知らないフリをされてしまった。
すると、ふっ。とサソリの口元が弧を描き、そのままデイダラの耳元で静かに口を開いた。

「安心しな、俺先生の事そんなに好きじゃねーから」
「そりゃ、どーも……」

うそつき。
デイダラは溜め息混じりに、でもどこか満更でもなさそうに、頭の中でそう呟く。
気付けば口の中で転がっていた飴玉は、いつの間にか溶けて無くなり、甘さだけが口の中に広がっていた。



スパイシードロップ





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生徒に翻弄される先生も、ありかもしれない。




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