いつもいろんな女の子に余所見がちな正臣だけれど、彼には一番特別な女の子が居る事は知っていた。
それでもこの想いは止められなくて。
彼を見てるだけで、彼と居るだけで幸せだったのに。それをずっと続けていれば欲が出てしまい、それだけでは物足りなくなった。
彼ともっと近くなりたい、彼の中での一番になりたい、彼に触れていたい、キスしたい。
そんな欲が膨れあがって、もうどうすることも出来なかった。だからかもしれない。こうして口を滑らせてしまったのは。

それはいつものように学校が終わり、三人で一緒に帰っている時。
止まらないマシンガントークを繰り返す正臣に適切な突っ込みを入れながらも、帰路を歩いていく。夕焼け空で赤みを帯びた池袋の街並みがとても綺麗。
そんな中、杏里は用事があると言い、一つお辞儀をして走って行ってしまった。
あからさまに残念そうに肩を落とす正臣に苦笑しながらも、少しだけ手に汗が滲んだ。
二人きりだという事実だけで、忘れていた緊張感がどきどきと胸の鼓動を早くする。
彼が好きで、好きで、好きで。
それなのに彼は、突然黙り込んだ帝人をどう捉えたのか。杏里が帰って寂しいのか?とにやにやと笑みを零す。
確かに三人で居る事が好きなので彼女が居ないと寂しいが、彼はきっと帝人が杏里の事を好きだからという意味で言っているのであろう。
なので思わず口を滑らせてしまった"僕は正臣の事が一人の人として好き、だよ"と。
言ってしまってから後悔したが、それでもこの気持ちに嘘は吐きたくないので。その言葉を否定せず、真剣な目で彼を伺えば。
初めは嘘だろうと笑っていた正臣の表情が険しくなってくる。そして悲しそうな、申し訳なさそうな表情をして。
"ごめん"
彼はそう言い、頭を数回掻いて俯く。
答えは分かってたよ、だからそんな顔しないで。
頭の中ではそんな風な言葉を彼に伝えたいと思っているのに、どうしてか喉の奥に詰まってしまう。それは、答えが分かっていたけどショックが思いのほか大きかったからか。
帝人は何とか振り絞った言葉で正臣に一言謝れば、そのまま彼に背を向けて駆け出した。

彼から逃げたって何にも変わる事なんて無いのだが、彼の困ったような表情が胸に刺さり。
逃げてしまったので、冗談でした。なんて事にするのはもう手遅れ。
男が男を好きだなんて、きっと気持ち悪いと思われた。
帝人は足を止める事ができなくて、そのままアパートに辿り着き、バタンと扉を閉じた。そしてそのまま、ずるずると床に腰を下ろし深い深い溜め息を吐いた。

次の日。いつの間にか日が昇っていた事に驚きながらも昨日の事を思い出し、憂鬱な気分になってくる。
それでも正臣にきちんと謝らなければ、と思う気持ちははっきりとしていて。
帝人はゆっくりと身支度を整え、扉を開いて家を後にした。
学校に続く道を歩いていく。
すると、目の前に見慣れた金髪が目に入った。きっと、否。絶対あの後ろ姿は正臣だ。
いつものように話しかけて、さり気なく謝れば良いんだ。
帝人は意を決したように一歩踏み出せば、そのまま立ち止まってしまった。
…でも、本当に出来るだろうか。またあんな困ったような表情をされたらどうしよう。
迷惑だなんて思われたら。
そんな言葉が頭の片隅に生まれ、どうしても一歩を踏み出せない。
こんな所でこんなにも臆病な自分が出てきて、そんな自分に吐き気がする。
気付けば彼はもう見えなくなっており、帝人はそれに小さく溜め息を零し止まっていた足を動かした。

学校に着けばいつもと変わらない日常が待っていた。
普通に登校して、普通に授業を受けて。ただ違うとすれば、いつも一緒に居た筈の幼なじみが居ないという事。
というより、自分から避けていると言った方が正確か。
彼に会わないように休み時間はトイレに逃げたり、彼を見かければ物陰に隠れてみたり。
時々すれ違えば、何か言いたそうな顔をする彼に気付かなかったふりをする。
本当は、そのまま彼の腕を掴んで人気の無い教室に連れ込み、そのまま強姦してしまいたい。理性なんてぶっ飛ばして、僕以外何も考えれない程壊してしまえたら。
なんて考えてしまう自分に反吐が出る。
帝人は頬杖を付いて窓の外を眺める。
ああ、何やってるんだろう。
深い溜め息を吐き出し、そのまま机にうつ伏せになる。ひんやりとした机に肌が触り、もやもやとした頭の中を紛らわせてくれる。
そう言えば昼休みに入ったんだっけ。なんて思いながらも、これから弁当を一人で食べなくちゃいけないのかななんて思ってしまい、悲しくなってくる。
それを紛らわすように瞳を閉じれば、これからずっとこんな風に過ごさなければいけないという不安がぐるぐる回り、胸の奥からぎゅうっと苦しくなってくる。
そんな時だった。
突然、腕を掴まれたのは。

一体誰なんだろうかと顔を上げれば、それは今まで避けていた彼。正臣で。
彼は怒っているような困ったような表情で、何も言わず帝人を立たせる。そして有無を言わさず引っ張り、帝人は足がもつれそうになりながらも彼について行く。
ぐいぐいと引っ張る手の温もりが暖かくて、暖かくて。一体何なんだろうと不安に思う中、彼の手のひらの暖かさに安心している自分も居て。
揺れる後ろ髪を眺めながらも、転けないように足元にも目を向ける。
階段を登っていき、どこに行くかは途中から気付いた。そして辿り着いた先は、案の定屋上。
そこには昼休みに弁当を食べている人、他愛のない会話を楽しんでいる人など。たくさんの人が居たが、正臣は帝人の手を離しいつものようにベンチに座り、そしていつものように弁当を取り出した。

「帝人、弁当食うぞ!」
「え、あ…正臣?」
「ん?もしかして弁当忘れたとか言うんじゃないだろうな?」
「違うけど…その、昨日の事とか…気持ち悪いとか、思わないの?」

恐る恐る震える声で不安を尋ねてみると、正臣は目を丸くして数回瞬きをし。そして、くっくっ。と喉で笑った。
どうして笑うのか分からず、帝人も目を丸くさせて数回瞬きをする。
すると漸く落ち着いた彼に肩を抱かれた。それだけでどきどきと鼓動が早くなり、顔の熱が一気に上昇していく。
それでもこの感覚が、彼の腕がいつもと同じで安心する。
正臣は、世界中の女の子に好かれてしまうこの紀田正臣の魅力に気付いてしまったのだから仕方ないさ。と冗談混じりに笑みを零せば、帝人の頭を乱雑に撫でる。
そして、恥ずかしさを隠すように空へと視線を逸らせば。

「…それに、俺は帝人とずっと一番の親友でありたいからなっ!」

顔を赤くさせて帝人に視線を戻し、にっ。と笑みを零した。
ああやっぱり僕は正臣が好きなんだな、なんて。それでもそんな言葉なんかより大切なものを見つけたような気がした。
帝人は小さく、ありがとう。と呟き、正臣に笑みを返した。

「当たり前だよ。僕と正臣と、そして園原さんもずっと変わらない親友だよ!」




言葉以上に大切なもの




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帝→正沙
まさかの沙樹ちゃんの登場無し。こんなはずでは←
しかしやっぱり来良組は書いていて癒されます^^
リクエストありがとうございました!



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