触れると離れて。離れると触れて。
繰り返し行われる動作にもどかしく感じながらも、それを止める勇気もない。目の前に映る黄金色の髪にそっと触れて、再びその手を戻した。
目の前にいる幼なじみは本当に綺麗な寝顔をしている。彼が起きていれば騒がしくて可愛いのだが、今の彼は"可愛い"よりも"綺麗"だ。そんな彼から目線を外し、天井で揺れる明かりに目を向ける。
ゆらゆらと揺れるその明かりは、まるで自分と彼の関係を表しているようで好きになれない。
彼は男、自分も男。彼には想い人もいるようだし、こんなにも脆くて危うい一本線で繋がる関係なんて、どちらかが一歩引けば直ぐに崩れてしまいそうで。
それでもずっと繋ぎとめておきたいと願うのは愚かなのであろうか。
上半身を起こせば、するりとシーツが滑り落ちる。別に疚しい事なんてしていないのだが、隣で彼が眠っていると自覚する度に熱が上昇する。

いつからであろうか、彼を友達ではなく恋愛対象として見るようになったのは。
たぶんそんな事は愚問であろう。彼に誘われて池袋にやって来た前から無自覚に惹かれていたのだから。いつになったら、いつまで我慢すればこの恋は実るのであろうか。
帝人は小さく溜め息を吐き出し、そっと起き上がる。部屋を見渡せば散らばる教科書やら参考書やらノートやら。
そう言えば夏休みの宿題を一緒にやってたんだっけ、なんて事を思い出しながら洗面台へと歩いていく。
電気も消さずにいつの間にか眠っていた事に溜め息を再び零し、蛇口を捻る。勢いよく出る水を調整して、それを両手で掬い顔全体を濡らした。
ぽたぽたと滴る水を拭い、鏡をぼーっと見つめる。
そこに映るのは紛れもなく自分の姿で、その鏡はとても疲れたような嬉しいようなよく分からない表情をしていた。
好き。このたった一言が言えなくて。もどかしくて。苦しくて。
それでも彼と居れば、話せば嬉しくて。嬉しくて。
自分でも止められない感情に苛立ち、再び蛇口を捻り勢いよく自分の顔に水を掛けた。


再び部屋へと戻れば、そこに彼は居なかった。
起きてトイレに行ったのかな、と考えていれば突然背中への重み。ゆっくりと顔だけ振り向けば、そこに居たのは帝人を背中から抱き締めている正臣で。
彼はスキンシップでしているのだと思うのだが、内心気が気でない。突如煩くなる心臓。
ああもう、誰かこの煩い心臓を止めてよ。

「……帝人、どこに行ってたんだよ」
「正臣…?」
「ごめん。もう少しこのままで…」

いつもと様子の違う彼に驚いた。それでもいつも以上に儚い彼の存在に、抱き締めてあげたい衝動に駆られる。
そっと手を伸ばし、振り返ろうとして止めた。
このまま彼を抱き締めてしまったら何かが終わってしまう、そんな気がしたから。
帝人は小さく唇を噛み締め背中からの温もりを感じながら、そっと目を閉じた。




好き、が言えなくて




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帝(→)←正
一番近い存在故に一番触れる事の難しい存在。





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