それは突然現れた。
いつものように学校が終わった後、正臣と帝人と杏里の三人でアイスクリーム片手に街を歩いていた時だった。
正臣は二人の先頭を歩き、行き先に背を向けて話に夢中になっていると、とんっ。と、背中で誰かとぶつかってしまった。
正臣は反射的に顔だけ振り返り、謝ろうとして硬直する。
そう、ぶつかってしまた相手は正臣の嫌いな相手。折原臨也だ。
帝人と杏里も驚いたような表情をしている。
そんな中、正臣はあまり関わらないようにしようと、早口で謝罪を告げてその場を去ろうと振り返り。
すみません、と小さく頭を下げて踵を返せば、ぎゅっと腕を掴まれた。彼のこの行動は流石に予想外だったので、眉を潜めて彼の顔と彼の腕を見比べる。
すると何を思ったのか、そのまま腕を離してその手をひらひらと軽く宙に振った。

「ごめんごめん、別に用事とか無いんだけどね」
「…そ、っすか」

なぜか直ぐに手放された腕が寂しくて、思わず言葉を詰まらせてしまった。
そしてそのまま踵を返し、帝人と杏里に笑みを向ければそのまま家への帰路を歩いていく。
少しだけ振り返れば、未だにこちらを見ている臨也と目が合い。それが嫌で、直ぐに前を向き直し。いつものように話しを再開させた。
それにしても調子の狂う。
いつものように意味の分からない行動をする臨也に対して、緊張してしまうのはいつもと一緒なのだが。その緊張感がいつものように張り詰めたような感じでは無かった事に、少しの困惑。
意味の分からない感情に、小さな溜息。
すると、帝人と杏里の心配そうな視線に気付き、徐に口元を釣り上げた。
大丈夫、とか。気分悪いの、とか。
本気で心配してくれる二人に、大丈夫だという事を冗談交じりに言えば、二人はお互いに顔を見合わせくすりと微笑んだ。

そして少しの間他愛のない会話をした後、二人と別れて夜の池袋の街を歩いていた。
家まで遠くない距離。
その時、ぎゅっと誰かに腕を掴まれた。先程の臨也の行動とデジャヴしており、一瞬期待してしまう自分が居て、思いっきり左右に首を振り。
そっと首を後へと振り向いた。
正臣は思わず目を疑ってしまった。そこには先程と同じく、折原臨也が腕を掴んでいるではないか。
数回瞬きをして、ぽかんと開いたままの口を閉じる事すらも忘れていた。
すると、彼は何時もに増して真剣な表情を小さく歪ませた。

「なんで、抵抗しないの?」
「……え?」
「どうして腕を振りほどいて走って逃げようとしないの、って事」

再び目を見開いた。彼がこんな事を言うとは思わなかったから。
そして臨也の言葉に正臣は言葉を詰まらせた。
理由が分からないのだ。目の前にはこの世で最も嫌いな人物が居て、そしてその人物は自分の腕を掴んでいる。
ここで抵抗すれば今後が怖いとか、そういったものではない。
なぜだかその答えが上手く言葉に表せなくて。
正臣は小さく顔を下に俯き、目を泳がせる。目が合わせれない。
すると彼は何を思ったのか、すっと掴んでいた手を離した。
その瞬間、再び湧き出てくる寂しいという感情。どうしてそんな事を思うのか自分でも分からないまま、眉をハの字に歪めて顔を上げる。
彼の顔を見れば、何とも言えない表情をしていた。

「正臣君、君は何がしたいの?俺の気持ちに気付いてわざとしてる?それとも、」




それとも君は唯の盗人かい



なぜか分からないけど、彼の側に居たくて。
そっと伸ばした手で彼の腕を掴んだら、いつの間にか溢れていた涙で前がぼやけていた。



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文章は臨→(←)正です。
実は両想いなんだよ、という話は大好きです。
こんな素敵な企画に参加できて、とても嬉しいです!
ありがとうございました。





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