今日は日曜日。そして今、正臣は帝人に内緒で彼の家の前に居る。
別にデートの約束なんてものはしておらず、ただ会いたくなったから。そして、ただ会いに行くだけでは面白くないので、突然来て驚かしてやろうという悪戯心が沸いてきたからだ。

しかし、正臣は帝人の住んでいるアパートの一室の扉の前で立ち竦んでいた。
何故なら、ノックをしても開かなかったのに、無意識のうちに掴んだドアノブは何の抵抗もなしに回ったから。
今の状況がゲームに出てくる勇者なら、容赦なく扉を開けてついでに宝箱も開けて去っていくのであろうが、正臣は勿論ゲームの中の勇者ではない。

しかし鍵が掛かっていないということは、少なくとも帝人は家の中にいるということで。
勝手に人様の家に入るのは気が引けたが、帝人の家だから良いか。なんて軽い気持ちでドアノブを回した。部屋の中に入れば、見慣れた狭い室内。
整理されている、というより必需品しかなく殺風景という印象が強い。しかしその中でも、パソコンだけは最新のもので、それだけが部屋の中で異質な雰囲気を醸し出している。
そんな部屋の片隅に。
ごろんと背中を向けて寝そべっている、帝人を見つけた(というより目に入った)。
正臣はこっそり彼の側に近寄れば、彼の何の反応も見せない様子に、寝ているのだと確信する。顔を覗き込めば、案の定すやすやと心地良さそうに寝息を立てていた。

鍵を掛けずに熟睡している彼を見て、泥棒が入ったらどうするんだと、未だ眠っている彼にぽつりと文句を漏らす。
数秒の間、じっと彼の寝顔を眺めていたが、なぜか彼に触れたくなって。気付いたらそっと彼の艶やかな黒髪に触れ、無意識の内にやんわりと頭を撫でていた。
気恥ずかしくなり手を離そうと思ったが、手のひらに触れている髪がとても柔らかくて。ずっと撫でていたいと思ってしまい、結局まだ彼の頭を撫でている。
それでも穏やかに眠る彼を見ていれば、小さな笑みが零れる。子猫を飼ったらこんな風なのかな、なんて思いながら。

「……帝人。」

どきどきと止まらない胸の鼓動に、正臣の心境は穏やかではない。
女の子は大好きだが、帝人と居る時の方がずっと幸せに感じるし、女の子と二人きりよりも今の状況の方が緊張してしまう。

こんな女々しいなんて、男じゃない!と、正臣は彼にキスをお見舞いしてやろうと、彼の頭を撫でる手を止めて。
そっと、彼の顔へと己のそれを近付けていく。
あと少し、あと少し。
唇と唇が触れる直前、彼の寝息が鼻に掛かり、ぼっ。と火を噴くように一気に熱が集中し、勢いよく彼から顔を離す。

「……やべー…。俺、どこのピュアボーイなんだよ…。」

顔を抑え、彼から視線を外し必死で顔を熱を冷まそうとするが、直ぐに冷えてなどくれず。
こんな顔で外に出れる訳もなく。
正臣はそっと、彼と背中合わせになるように寝そべり、そのまま瞼を閉じた。

そして、数分後。
正臣は本気で熟睡し、すやすやと寝息をたてている中、この部屋の主である帝人がゆっくりと体を起こした。
帝人は正臣が一緒に寝ている事に心底驚いたが、そのまま幸せそうに微笑み、彼の髪にそっと触れた。



無意識ループ





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ナンパ好きな彼が、ピュアになる瞬間。





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