思わず出てくる大きな欠伸。 そのまま腕を上げて体を伸ばせば、隣で歩いている杏里に寝不足かと心配そうな瞳で見つめられた。 それは本当に綺麗な瞳で、正臣がいたらまた、エロいね。なんて単語を嬉しそうに口に出すのであろう。 そんな事を片隅に思いながらも、帝人は杏里の前で大きな欠伸をした事に赤面する。しかし、それに素直に頷き、再び欠伸。 やはり女の子の前ではどれだけ紳士的になりたくても、眠気には勝てないようだ。 今は学校の登校中。見慣れた通学路で帝人が杏里を見つけ、今に至る。 なぜいつものように隣に正臣が居ないのかというと、彼は寝坊したらしい。彼と同じ時間に寝たというのに、寝坊したいという欲望に打ち勝ち、朝を起きた自分を誰か褒めてほしい、と思う。 自分と同じ制服の人達が増えていく中、帝人と杏里の間に会話という会話は無く。正臣が居ないとこんなにも会話というものの難しいのかと思ってします。 それでも会話なんてなくても、嫌だという感覚には陥らず。これはこれで僕らの関係なのかな、なんて少しの自惚れ。 それでも何か会話を探していると、ポケットにしまっていた携帯電話が突然震えだした。 それを取り出し、着信相手を確かめれば、それは正臣で。 杏里に、正臣から着信だと告げればお互いに顔を合わせ、二人で苦笑を洩らした。 そして正臣からの着信に出れば、彼の突然の大きな声に思わず肩が震えてしまった。 『帝人ー!お前、なんで起こしてくれなかったんだよ』 「え?正臣が起きたって言ったんでしょ?」 『馬鹿!ったく、二度寝という単語をしらないのかお前は!』 「…もう起きなくていいよ」 一度起きて帝人に寝坊した事を告げた後、また寝てしまう彼が容易に想像でき、溜息が出てくる。 帝人は徐に隣を見れば、驚いたような顔をした杏里が居た。どうしたのかと思ったが、正臣の声が大きかったので携帯越しに聞こえ、二度寝したという事に驚いているのだと理解する。 帝人は正臣に、早く学校に来るんだよ。と告げ、電源ボタンを押して通話を切った。 聞こえているとは思うが、杏里に正臣が遅刻する時間帯に起きて尚、二度寝したという事を伝える。 すると彼女はくすりと可笑しそうに微笑んだ。 笑顔が綺麗だというのはこういう事なのかな、なんて頭の片隅で考える。 帝人も彼女に釣られて微笑めば。 「二人とも、一緒に寝たんですか?」 ……はい? 微笑みを通り越して、口角が引き攣ってしまった。 「…って、えぇ?違うよ、違う!」 ぶんぶんと勢いよく首を横に振って、彼女の言葉を否定する。 杏里は多分純粋に、友達同士でお泊まりでもしたのかと聞いたのだとは思うが、実は正臣と付き合っている帝人にとっては違う意味に捉えてしまうのは当然で。 一気に顔に熱が集中する。 本当にそうだと良いのにね、なんて思ってしまい自己嫌悪。顔の熱が余計に高まっただけだ。 本当は昨日の夜、定時にチャットをするのも忘れて遅くまで正臣とメールをしていたのだ。なので二人共同じ時間に寝て、二人共寝不足なのだ。 それを杏里に告げれば、彼女は納得してくれたらしく。 変な誤解をしなくて良かったと妙に安心した。 そして彼女は再び、とても仲が良いんですね。と、まるで自分のことのように綺麗な笑顔で微笑んだ。 本当は、寝る時間も惜しいほど、 ずっと一緒に居たいんです ---------------------------------- 正臣は声だけの出演でした← |