口の中いっぱいに広がるイチゴクリームの甘ったるい味。ふわふわのスポンジの上に乗ったそれは、まるでファンシー。 一口、また一口と口の中へ運んでゆき、消えることのない甘味に頬を綻ばせる。イチゴの酸味がクリームの甘味に絡み合い、口の中でとろけるように消えてゆく。 あぁ、これが至福の時なんだな。なんて感じながら濃厚なケーキを全て口の中へと運んでいった。 これで目の前にいるのが可愛い彼女、だったら最高なのに。 正臣は空になった皿の上にフォークを置き、目の前でずっとこちらを見ていた彼へと視線を戻す。 彼、折原臨也は正臣がケーキを食べている間、ずっと目を離さず正臣の食べている様子を観察するように見つめていた。全て食べ終わるまで頑張ったつもりだが、やはり非常に食べ難く。 どうして臨也に見つかってしまったのかという、分かりきった答えに頭を痛めた。 そう、情報屋の気まぐれによって生まれた結果であろう。 ここのカフェは先日オープンしたばかりで女の子との会話のネタになると思い、訪れたのだ。 そしてケーキを食べてみれば、これが本当に美味しくて。あと二、三個は食べれるな。なんて思っていた矢先に奴が現れたのだ。 思い出しただけで、頭の奥が痛くなってくる。 正臣は空になった皿を見つめながら、次は女の子をナンパした時に食べよう。と頭の中でシチュエーションを描いていく。 すると、目の前にいる臨也は何を思ったのか、近くにいる店員にケーキを二個頼みだした。しかも正臣が食べてみたいと思っていたもので。 唖然としていると、彼はにっこりと笑みを浮かべ。 「正臣君が食べたそうにしてるから、頼んじゃった。」 なんて、答えた。 人が食べたいと思っているものを目の前で食べる気か、この人は。 口を引きつらせ、怒りが出る前に呆れてしまう。正臣は、この空間から早く抜け出したいと、早々に店から退却するために席を立った。 すると突然臨也に腕を取られ、どうしたの。と小首を傾げる。 彼に言い訳なんて通用しないことは分かっていたが、頭の中で反射的に言い訳を考える。彼の腕を無理矢理振り解き、その場から立ち去るという選択肢もあったのだが、どうしてだか足が動かなかった。 そして、そんな時。タイミングが良いのか悪いのか。振り向けば、綺麗な女の店員が臨也の頼んだケーキを持って来ていた。店員が丁寧にお辞儀をしてその場を去っていけば、それと同時に臨也に座るように促される。 正臣はしぶしぶ席に座り、臨也の顔を伺うようにチラリと見つめた。 するとパチリと目があってしまった。しかも、彼の視線がとても熱を帯びているものだから。正臣は少し頬を赤らめながら、外の方へと視線を逸らした。 すると彼は、はい。と先程頼んだケーキを二つとも正臣の方へと位置をずらす。 え、とケーキと彼の顔を交互に見比べれば、臨也は満足そうに微笑み。 「良いよ、食べて。俺は甘いものを食べるより、甘いものを食べる正臣君を観察する方が好きだから。」 それに、 「やっぱり、こっちの方が甘い。」 一瞬顔が近付き、それと同時に唇に柔らかい感覚。小さなリップ音に、キスをされた事に漸く理解できた。 面白いものを見るように、笑みを浮かべる臨也に対して込み上げてくるのは怒りなんて感情ではなくて。ふつふつと生まれていく恥ずかしさと混乱により、一気に顔が赤くなるのが分かる。 何されたんだっけ、え、キス?なんで、なんで。 頭の中が上手く整理できず、ぐるぐるとループする思考回路。正臣は、そっと唇に触れれば、丸くなっている瞳をそっと臨也に向ける。 すると彼は声には出さず口だけで言葉を紡いだ。 「なっ、なっ?」 その言葉を理解すれば、混乱している頭の中に、再び混乱を招き。辺りにいる他の客の視線に気を向ける余裕もなくて。 それでも、ここから直ぐに逃げようか、ケーキを食べてから逃げようか冷静に考えている自分も居て。 あの言葉が、自分の思い過ごしだと信じたいような信じたくないような。でも先ずは、次に自分は何という言葉を発すれば良いのか、何という答えを出せば良いのか考えなければならない。 そう。彼の、愛してる。という言葉に。 甘いものには弱いんです ------------------------ そういえば、ちゅー話を書いてなかったと今更気付いて書きました。 はい、甘いのはケーキだけでしたね。 |