(臨→正→帝) それは、とある午後の一時。ある雑誌を見ていて、驚いた。そしてそれと同時ににんまりと口角を釣り上げた。 なぜかは、見知った名前と顔写真が載っていたからだ。 普通の雑誌なら、見知った人物が載っていたら凄いなぁなんて思うだろう。普通の雑誌なら。 この雑誌は一般では発売が禁止されている、所謂違法のもの。裏では何かとマニアックな人たちに人気を集めている。一言で表せば人身売買を目的とした通販カタログのようなものだ。 しかし、ここに載っている愛玩人形達は何も知らない一般人。ターゲットはランダムに決められ、レンタルが開始された日、業者に拉致され、客に渡るらしい。 ターゲットの性別年齢等全てにおいてランダムなので顧客層も幅広く、一ヶ月単位でターゲットは入れ替えられるので、顧客の飽きが来ないのだ。 その雑誌に載った彼は、明らかにカメラの位置を把握しておらず、それが盗撮写真であることが一目で分かる。そして、レンタル期間最大三日。価格三百万円。と書かれていた。 そして彼のレンタル開始期間は、……。 春から夏へ移り変わりの、ぽかぽかとした陽気な朝。そのゆったりとした時間と暖かな気温の流れに癒される。そんな季節。 綺麗な緑を彩った木々のある来良の校門を抜ければ、休日前とはまた違った雰囲気を漂わす学校。たぶん気のせいではあるのだが、学校生活が楽しくて楽くて、些細な事でも大きく違って見えてしまうものなのだ。 そんな期待と希望を含んだ表情をして足元を踊らせているのは、紀田正臣。風に触れると太陽の光を吸収してキラキラと光る金髪と来良の制服の下にあるパーカーが特徴な、そんな男の子。 正臣は校門を潜った直後、近くに居る女子に声を掛けた。 それはお決まりの、名前なんていうの?とか、学年は?とか。 対する女子は困ったような満更でもなさそうな表情をしている。近くの学生達は、その状況にくすくすと笑う者も居れば、素通りする者も居る。 そんな生徒達の中、正臣の後ろで立ち止まり、小さな溜め息をつく者がいた。 それでも正臣は、彼に対して嫌悪感なんてものは抱かず。先程まで話しかけていた女子を置いて、くるっと溜め息をついた生徒、竜ヶ峰帝人の方へと振り向いた。 「おっはよー、帝人。しっかし、どうしたんだ朝から溜め息なんて。そんなだから幸せと女の子が逃げてしまうんだぞ?」 「はは、笑えないよ。……それよりさっきの人達もう居ないけど、いいの?」 「え!?」 帝人の言葉に、先程までの笑みが強張った。そのまま賺さず振り向けば、彼の言葉の通りに彼女達の姿は既に無くて。会話しながら下履きを履き替えているのがチラリと目に入った。 それを黙視すれば、ガクッと肩を落とす正臣。 帝人は苦笑混じりに正臣の肩をぽんと叩けば、その瞬間ぴくりとそこが震えた。そして、そのまま何事も無かったように、または震えた肩を誤魔化すように、正臣は笑って場を過ごした。 御察しの通り、帝人と正臣は幼なじみである。 小さな頃から一緒にいて、彼とはずっと一緒にいられると思っていた。 だから帝人が池袋に引っ越してくると決めた日、涙が出るほど嬉しかった事を覚えている。 久し振りに会った帝人は変わっていなくて、少し変わったと言えばツッコミに切れが出てきたというところか。 まぁ、そんな訳で二人は親友なのだが。 二人の関係は昔と変わらず、変化なんてものは無い。だから正臣は帝人が好きだという事は死ぬまで言う時は来ないだろう、そう思っていた。 そして、帝人の隣でくすりと笑みを零すのは、皆の天使こと園原杏里。 正臣は帝人の事が好きだが、帝人と杏里の三人でいる事が何よりも大切で。 ここが自分の居場所なんだと改めて実感することができる。 正臣は杏里に朝の定番の挨拶をすれば、彼女の肩を抱き、先を促す。そうすれば帝人も慌てて着いてきて、園原さんが困ってるでしょ。と、呆れたような楽しそうな悔しそうな、そんな声を漏らす。 そんな他愛のないやり取りが幸せで、大切で。 この関係を失いたくない。否、ずっとこのまま崩れない、そう思っていたんだ。 先程まで晴れていた空に暗雲がかかり、今にも鳴きそうな空に三人の笑い声が木霊した。 そして、放課後。 いつもと変わらぬ平凡な学生生活の一日が終わりを告げる。 正臣はいつものように三人で帰るつもりだったのだが、帝人と杏里は学級委員の仕事があるらしく。先に帰ってほしいと促されたので、今回は杏里の隣を帝人に譲ろう。と、ちくりと痛む胸を無視して二人に背を向け手を軽く左右に振った。 ぽつり、ぽつり。 いつの間にか小雨が降りだした、その通学路を朝とは逆に進む。 本降りになる前に帰らないと、と泣き続ける空を眺めながらゆっくりと歩いていく。すると、突然。 急ブレーキの音が聞こえてきて、何事かとその音の方へ振り向いた。その時。 口と鼻に、何か布のようなものを被せられ、そこに染み付いた匂いにくらりと視界が揺らいだ。 意識が遠退く中で、大きな男たちがこちらを見下ろしている姿が目に入った。 夢を見た。 それはいつもと同じ風景。 正臣と帝人と杏里が三人で談笑している姿。 それは朝の風景とデジャヴしており、そしてその風景が何よりも幸せなんだと気付く。 そんな幸せな映像から現実へと引き戻されれば、先に目に入ったのは真っ暗な視界。 とても窮屈で身動きすらできない。そして口には布を噛むようにして縛られ、その上からガムテープが貼られている。 手足にもご丁寧に、簡単に外れないようにロープで縛られていた。 先程まで普通の生活をしていた筈なのに、これは一体何なんだ。と、この状況に頭が上手く着いて来れない。 すると突然、上から光が溢れてきて。 思わず細めた目で、それを見れば。 「へぇ〜、こういう風に届くんだ」 「!?」 そこには箱の蓋を持ち、にんまりと口角を釣り上げる、折原臨也が見下ろしていた。 嫌悪感の前に状況の把握が出来ず、困惑する正臣を余所に、彼は丁寧に正臣の体を起こす。 そして口に付いていたガムテープを外せば、手足のロープと口の布はそのままで、先程より深い笑みを零した。 辺りを見渡せば、ここが臨也の住んでいるアパートだと理解する。また、自分が丁寧にラッピングされた箱の中にいるという事も理解し、再び訳が分からなくなる。 困惑して目を丸くしている正臣に、あぁ。と、臨也は今更気付いたように呟いた。 そして正臣の前に、例の雑誌を取り出せば。 丸くなっていた正臣の瞳が険しいものに変わってゆく。 そこに載っているのは人身売買のカタログで。正臣自身が商品として、その雑誌に載っていた。 手足をロープで固定され口も布で縛られている為、目の前で楽しそうに顔を歪める臨也に殴るどころか文句すらも吐き出せれない。また逃げる事すらも出来ない。 そんな正臣の心境を知ってか知らずか。 臨也はそっと囁くように、正臣の耳元で微笑んだ。 「今日からレンタル期限まで、正臣君は俺のものだから」 レンタル少年理論 自分の中の幸せな日常が崩れ去る、そんな音がした。 ------------------------ 長編にしようと思ったけど、裏ばっかりの展開になりそうだったので自重。 気が向いたら続きを書くかもしれないです。 ……気が向いたら(大事な事なのでry |