バタバタと重たい足に鞭を打って池袋の街を駆けてゆく。すれ違う人達は、そんな自分にぶつからないように避けていく。それでもぶつかってしまえば軽く謝罪し、再び地面を蹴った。
なぜ、今自分は街中を走り回っているのかというと、美女に追いかけられてる訳でも女の子の待ち合わせに遅れて急いでいる訳でもない。寧ろそうであって欲しいのだが、現実は高い確率で厳しい方向へと進んでいく。
正臣はもう一度、足は止めずに後ろを向き奴が居ない事を確認すれば小さな溜め息。
そして再び前を向いた瞬間、どんっ。と曲がり角で人にぶつかり、派手に転んでしまった。後ろばかり気に取られていた自分の失態だ。
正臣はすぐさま、ぶつかった相手に謝罪をすれば目が合って初めて気付いた。ぶつかった相手が、折原臨也である事に。

そこでまず脳内を整理する。
先程、帝人と杏里に別れを告げた後ナンパでもしようと歩いていた。その時に最も嫌いな折原臨也を見つけてしまい、同時に目が合ってしまったので直ぐ背を向けて逃げてきた。
筈だった、のに。

正臣は目の前にいる彼を凝視しながら、どうして居るのかと頭の中で何度も繰り返す。すると臨也は、くすりと笑みを漏らし転んだままの正臣の腕を掴んだ。
大丈夫?なんて声をかけられながらも、腕をぐいっと引っ張られ、強制的に立たされる。

「……っ、え?」

そして、そのまま彼の腕の中に収まってしまったのだから驚いた。ここは街中、ましてや折原臨也に抱き締められるなんて。
正臣は脳内できちんと整理が出来ないまま、彼の胸を強く押した。すると、あっさりと離れてくれたので少しの安堵。
気を取り直して小さく睨み付ければ、また彼は笑みを零す。そして、ぽんっ。と正臣の肩に手を置いた。

「……それで、何で逃げだのかな?」

清々しい程の、その笑顔に何かおぞましいものが見えて正臣は何も答えず、目を泳がせる。
それに、あなたに会いたくなかったからです。なんて言える筈がない。言ったら、何をされるか全く想像が付かない事が恐ろしい。
あぁ、臨也さんは黙って何もしなければ格好良いのにな、なんて言葉が浮かび徐に首を小さく振った。

「……ま、いいけどね。正臣君のその顔が見れたから、俺としては満足だし。」

正臣が小さく首を振った事をどう解釈したのかは分からないが、それ以上追及してこない事に少し安堵。そして少しの疑問。
先程のやり取りの中、どこに満足する要素があったのだろうか。首を捻る正臣を横目に、臨也はまたねと背を向ける。
しかし数歩歩いて立ち止まった。
正臣は再び小首を傾げれば、彼は思い出したように首だけをこちらに向けて微笑み、そして自分の頬を指差しながら。

「あぁ、あと顔隠した方がいいよ。ここ、真っ赤だから。」

そう、告げたあと彼は満足そうにその場から立ち去っていった。
臨也が見えなくなるまで、唖然とその背中を眺めていたが、そっと自分の頬に触れてみる。するといつも以上に暖かい体温に、彼の言った言葉が本当である事が分かった。
いつから赤くなっていたんだろう、とか。なんで赤くなったんだろう、とか。
そんな言葉がぐるぐると脳内を支配していき、そして津波のよう恥ずかしさが押し寄せてきた。
正臣は口を引きつらせ、先程より真っ赤になった頬を包み込む。
そして見えなくなった彼に向けて、恥ずかしさを紛らわすように思いっきり叫んでやった。

「っ、死んで下さい!」



たぶんそれは愛ある拒絶




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実は両想いなんだよ、という話。





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