携帯から聞き慣れた音楽が鳴り響く。勿論、携帯の着信音だ。 しかし今は授業中。出るわけにはいかないので、プチ。とそのまま電源ボタンを即座に押した。 先生と目が合い、咳払いをされたが笑って誤魔化した。 そのまま携帯をしまおうとした、その時。 また、聞き慣れた着信音が鳴り響いた。 相手も自分が学校に行っている時間だと分かっている筈なので、まさか続けて電話してくるとは思わなかった。正臣は慌てて携帯の電源をそのまま切れば、先生に一睨みきかされたので、すみません。と頭を掻きながら謝っておいた。 携帯が鳴ったのが、この先生の授業中で本当に良かったと、小さな溜め息。普通なら今頃、携帯を没収されて反省文を書かされる羽目になっていた筈だ。 隣の男子に小突かれたが、いつものように『授業中でさえも俺の声を聞きたいと、子猫ちゃんから電話が来るなんて…。俺も罪な男だ』と、右指で器用にシャーペンを回す。電源を切り、画面が真っ暗な携帯をポケットに入れ。…まさか、な。と、電源を切る前に見た着信相手の名前を誤魔化すように、小さく頭を横に振った。 ありきたりなチャイムが鳴り響く。退屈な授業が終わりを告げる合図。 クラス委員の号令に合わせて礼をすれば、先生が教室から出て行くのを確認し、正臣はいち早く携帯の電源を付ける。 すると、メール受信数27件、着信が30件以上。 送信者は全て同一人物で。流石に驚きを通り越して、何とも言えない恐怖が湧き出てくる。 どうして彼からこんなにもメールと着信があるのか、どうして自分なのか。だいたい予想は付いたが、本当にいい迷惑だ。 正臣は携帯を再度ポケットに戻せば唐突に、がたり。と椅子を鳴らして飛び跳ねるように、勢いよく立ち上がった。そして、そのまま教室を後にし、廊下を駆けていく。 途中で先生に注意されたが、それも聞こえないフリをして更に床を蹴った。 ばんっ、と勢いよくドアを開ける。 そこは、学校の屋上で。なぜ屋上に来たのかと言うと、ここでなら携帯を普通に使っても大丈夫だろう、なんて思った結果である。 ふぅ。と小さな溜め息をつき、ポケットに押し込まれていた携帯を取り出した。 するとさらに着信が三件増えていた。それは案の定、同一人物で。 その名前を見ただけで憂鬱な気分になるのだが、このまま出ないと定期的に何度も電話が鳴りそうなので決心を付けることに決め。 正臣は浅く深呼吸をして、タイミングよく着信が鳴った携帯のボタンを押した。 「……もしもし。」 『あー!やっと出た。』 「今学校なんですけど……、何の用ですか?」 『え?用事なんてないよ。』 もう少しで携帯を地面に叩きつける所だった。 携帯には罪なんてないが、それだけ頭に血が上ってしまったのだ。 予想は付いていたのだが、流石に授業中にまで電話をかけてこられ、理由を聞けば拍子抜けな言葉なものだから。溜め息をつきながらも、怒ったら彼の思うツボだと頭の中で自分を自分で抑える。 「……また、新しい趣味ですか?」 『そ!正臣君のストーカーが俺の新しい趣味。でももう飽きちゃったから、これで終わり。』 はぁ、と再度溜め息が漏れた。 彼は信念やら趣味興味やらがコロコロ変わるので、それに付き合っている自分の苦労は耐える事がない。 やっぱり電話はかけるより、かかってくるのを待つ方が好きだな。 なんて、彼が最後まで言うのを待たずに電源ボタンを強く押してやった。 君からの着信なら喜んで ------------------------ ストーカーなら張間美香を見習いなさい!……って感じですね← |