ありきたりなチャイムが響きわたる。それを合図にガラッと教室のドアが開き、そこから一人の生徒が飛び出るように出できた。
その生徒、紀田正臣は自分の教室を出た後、直ぐに帝人のいるクラスに向かって歩き始める。
正臣は学校でクラスの皆と騒ぐ事はもちろん好きだが、一番好きなのは友達であり恋人でもある帝人といる事だ。彼と居ると凄く安心できて、自分は一人ではないと実感できる。一緒に居て心が温まる、そんな気がするのだ。
早くその温もりを感じたくて、帝人のクラスに入り黒板消しをしている彼の肩を叩いた。

「……っわ!」
「ははっ、お前驚きすぎ。そんなだからラブライフな日常を取り逃がしてしまうんだよ」

なんて、からかうように肩をぽんぽんと軽く叩く。そして苦笑を浮かべる帝人に、今日は帰りにどこに行くのかを聞いてみる。
すると彼は、ごめん。と小さく首を横に振った。
帝人はクラス委員の仕事があるらしく、帰るのが遅くなるそうなのだ。
仕方がない事なのだが、いつも楽しみにしている分、落胆も大きくて。
それでも、先に帰ってて。と帝人が申し訳なさそうに言うものだから、責める事もできずに。
正臣は小さな溜め息を吐き、仕方ないから待ってやる。と彼に笑顔を向けた。
実のところ、そのまま先に帰る事なんてできなかったのだ。
正臣は、教室にいるからな。と一言付け加え、そのまま先程飛び出した教室へと戻っていった。

はぁ〜、という溜め息が響き渡る。
自分の教室へと戻れば残っている生徒に話しかけられ、いつもの軽口を叩き、そのまま自分の席へと腰を下ろした。
なぜだか今は誰かと話す気分にはなれなかったのだ。
ぼーっ、と窓の外を眺めてみる。うっすらした雲が静かに流れて、隙間から覗く太陽に窓越しだというのに目が眩む。
教室内は相変わらず、放課後賑やかで。でも少なからず人数は減ってきているのが分かる。理由はこれから始まる部活か、それとも街に出るのか家に帰るのか。しかし今はそんな事はどうでもいい。
早く帰りたいわけでも早くナンパしたいわけでもないのに、早く帝人に来てほしいと思ってしまう。そう、ただ一緒にいたい。それだけなのだ。
正臣は辺りに気付かれない程の小さな溜め息をつけば自分の腕を枕代わりにして、そっと瞳を閉じた。
眠たかったわけではない。寂しさを紛らわす事を、夢の中に頼るしかなかったのだ。
正臣はゆっくりと意識を手放した。


「………っは!」

がばっ!と勢いよく顔を上げる。それと同時にゴンッと頭に何かがぶつかり、鈍い音が脳内に響いた。
そこを庇うように抑えれば、ぶつかった何かからも、痛たた…。と痛みに震える声が聞こえる。
未だぼんやりとする頭で、ぶつかったのは人だと理解し、その人物に顔を向ければ。
それは親友であり、恋人の竜ヶ峰帝人だった。彼は目に涙を溜めながら、顎を抑えている。
あれ、クラス委員の仕事はどうしたんだろう。と一瞬思ったが、どうやら先程まで本気で寝ていたらしい事に今更ながら気付いた。
窓から見える空は既に赤く染まっており、先程までわいわい賑わっていた教室が嘘の様に空っぽで静けさを帯びている。
帝人のクラス委員の仕事なんて、とっくの昔に終わっている事なんて一目瞭然で。彼が今までずっと待ってくれていた事に少し驚いた。

そして、それと同時に帝人が待っていた間、ずっと寝顔を見られていた事に気付く。
俺とした事が帝人に寝顔を見られるなんて、一生の不覚だ。と、未だ痛む頭を抱えれば、帝人も顎を抑えているにも関わらず大丈夫かと心配をしている。
そんな彼が可笑しくて、愛しくて。
くすり、と笑みを漏らせば、それを合図に帝人が正臣の顔を覆うように抱き締めてきた。
そして、

「正臣、明日から学校で寝ちゃ駄目だよ?」

可愛すぎるから。
なんて付け加えられて、少しだけ頬を赤く染めた。
可愛いと言われたからではない。ただ、彼が小さな嫉妬をしてくれている事に、自分は愛されてるなと改めて噛み締める事ができたから。
正臣は、包み込むように抱き締めてくれる彼に聞こえるようにそっと囁き、そしてそのまま幸せをぎゅっと抱き締めた。

「ばーか、無理だよ。」



それは青春の証



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実は、帝人は紀田くんが起きるまでずっと、彼の寝顔を眺めていたんだよ。…という話^^←





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