空が赤黒く染まり、街の中を赤く染めてゆく。もうそろそろ夕暮れ時であろう。 念の為店の中にある時計の針を確認すれば、やはり夕暮れ時の時間帯だった。 帝人と正臣は今、ゲームセンターに来ている。毎日の日課になっている、学校の放課後の楽しみ。 今日はたまたまゲームセンターだったのだが、昨日や一昨日は本を買いに行ったり公園でナンパ(主に正臣が)したり。まぁ、いろいろな場所を見て回っているのだ。 そして今なぜ帝人と正臣の二人しかいないかというと、今日は杏里には用事があるようで先に帰ってしまったのだ。 まさか二人きりになるとは思ってなくて。帝人は突然の事に、緊張と嬉しさの整理が付けずにいた。 二人きりだなんてよくある事だが、その度にドキドキと感情が高ぶっているのだ。二人きりという事実に胸の鼓動がドキドキと高鳴ってしまうのだ。 帝人は最初はたくさんの人に、ゲームに目を輝かせていたが、慣れてくれば正臣と居る事に意識をしてしまう。 ゲームに夢中になる彼が格好良くて、可愛くて。 そんな風にお互いがお互いに思い合っている事なんて気付きもしないで、このいつもの放課後の時間が、一番幸せだと感じた。 しかし、幸せの時間なんてあっという間に過ぎるもので。先程まで赤黒かった空も、今は黒く染まっている。 徐に再度時計を見れば、いつも家に帰る時間帯になっていた。 いやだな、帰りたくないな。なんて。我が儘な言葉が頭の中でぐるぐると主張するが、帝人は首を横に振り正臣に、帰ろうか。と呟いた。 夜だというのに街は静けさを知らないかのように賑わっている。この感覚に未だ興奮を覚えるが、この時間はいつも何故か色褪せて見えた。 止まらないマシンガントークを繰り返す正臣の隣で帝人は小さな溜め息。別に疲れていた訳ではない。ただ、この時間が終わるのが寂しいと思ったのだ。 そんな時、目の前でチカチカと青と赤に点滅する信号が目に入った。この信号を過ぎれば、正臣とは別の方向へと帰らなければならない。 正臣が、走るぞ!と駆け出そうとしたので、はっとして彼の腕をぎゅっ、と掴んだ。 正臣は、まさか止められるとは思っていなかったのだろう、唖然としてこちらを見る。 その間に信号は点滅する事を止めて、赤色に染まった。 わいわい、ざわざわ。 回りにはたくさんの人の声や車の音。いろいろな音が聞こえる筈なのに、今は何にも聞こえない。 まるで二人だけの世界に居るみたいな感覚。 数秒間固まっていた正臣は帝人の思いに気付いたのか、ゆっくり微笑み彼の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。 人混みの中、ぎゅっ。とお互いに手と手を繋いで、相手の存在を確かめる。滑らかな肌触りに自分と同じぐらいの大きさの手。 このままずっと離したくない。 信号がずっと、赤のままだと良いのに。 帝人は横目で正臣の方へと顔を向ければ、シンクロするように目があった。ドキドキと止まらない胸の鼓動に、夕暮れ時は過ぎた筈なのに夕焼け色に染まる頬。 そのままお互いにに、くすりと笑みを零し。また信号へと顔を向けた。 そして数秒後、パッと赤から青へと信号が変わる。 「帝人、また明日なっ」 気恥ずかしいのかそうでないのか、頬を真っ赤に染め上げた正臣はそう言って、名残惜しそうに繋いでいた手を離した。 信号の変わるまでの短い時間だったけれど、その時間は確かに止まっていた。 明日は今日以上に握ってあげよう、そして二人でまた同じ幸せを同じ時間で。 さよならまでの幸せな時間 ------------------------ 帝正は百合っぽい← |