どうした、どうしてこうなった?
すーすーと規則的な寝息と共に肩にかかる吐息。黒い髪が首に揺れてくすぐったい。
そんな甘い空間。
だが、隣で寝ているそいつが、そんな甘さを苦みに変えている。
そう、今彼の肩を枕にして寝息を立てているのは、静雄の一番嫌いとする人間、折原臨也なのだ。

事の発端は三十分程前に遡る。
池袋をいつものように歩いていたら、臨也を見つけたので、いつものように追いかけて。喧嘩して。
いつものように殴ってやった。それだけ。
だが、今日はいつもと違ったらしく。臨也が気絶してしまったのだ。
そのまま何事も無かったように帰ってやるのも良かったのだが、周りの目が人殺しを見るような目をしていた(ような気がした)から。仕方がないので新羅に診せる事にしたのだ。
臨也を運ぶ時、予想以上に軽くて少し驚いた。
背中で無抵抗にぐったりとする臨也に、少し虫酸が走るが、なぜかそれ以上に心配している自分がいて。静雄はそれを振り払うように首を左右に振り、新羅の家へと駆けていった。
そして漸く着いた新羅の家の玄関口で、よろしく頼む。と、臨也を置いてそそくさと帰ろうとした。が、新羅にそれを阻止されて今に至る。

静雄の溜め息など知ってか知らずか、彼の肩を借りて寝息を上げる臨也は心地良さそうに眠っている。
また、溜め息が零れた。
今、新羅は飲み物を持ってくると言って、この場から離れている。セルティは出掛けているらしく、この家には居ない。
つまり、この部屋の中では静雄と臨也は二人きりなのだ。
(臨也がこんな風だと調子が狂っちまうな)
寝ている時が一番の素の顔とは聞いたことがあるが、臨也のこんな顔は初めて見た。
無防備にも瞑った瞳に、薄く開いた唇。そこから漏れる吐息は暖かく、また規則的に動く肩は華奢で。
不覚にもドキリと胸の鼓動が高鳴ってしまった。

あぁ、何を思っているんだ。きっと、魔が差したんだ。
そう頭の中で言い聞かせながら、そっと彼の前髪に触れてみる。すると少しだけ隠れていた瞼が見えて、本当に寝ているんだなと改めて感じ、自然と笑みが漏れた。
その時だった。

「……え、何しているんだい?」

ちょうどこの部屋に来たのであろう、新羅がコーヒーの入ったコップを2つ持ち、その場に立ち尽くしている。
あれ?いつからそんな関係?とか、臨也はやめといた方が良いんじゃないかな?とか。
つらつらと驚きを隠せないまま言葉を発する新羅に、怒り以上に恥ずかしさが募っていく。
そして、こんな混乱した状態で、臨也の肩がピクリと動くものだから当然またややこしくなった。

目が覚めた臨也は、目を丸くして静雄の存在を確認するや否や、顔を真っ赤に染めて瞬時に距離を取った。
彼もまた珍しく混乱しているのか、苦笑いを浮かべキョロキョロと辺りを見渡している。
彼の頭が肩から離れる瞬間、なぜか寂しくなったがそれは気のせいだという事にしておこう。

「ちょっと、意味分かんない。気持ち悪いからやめてよ。」

あぁ、もう。本当に喋んな。
イライラとこめかみに青筋を作りながら、それを鎮静するかのように煙草を思いっきり吸う。
しかし、次の彼の言葉に、何かが切れる。そんな音がした。

「言っておくけど、俺そんな趣味ないから。」
「…いーざーやぁー!」

俺だって無ぇよ!
静雄の声が響くのを合図に、二人は立ち上がった。
そんな二人を横目に、新羅はこれから起きるであろう惨事を想像しながら、自分で入れたコーヒーを一口飲み。

「……あぁ、セルティ。早く君に会いたいよ。」

新羅は、この終止符の付かない空間に笑うしかなかった。



今日も平和、です





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好きあってるけど、付き合ってない二人…のつもり。




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