人の声と車の音、街はいつも賑やかだ。そんな街の片隅で、竜ヶ峰帝人は頭を抱えていた。
その理由は目の前にいる友人、兼恋人の彼で。
紀田正臣。彼は一応恋人となっている帝人の目の前で可愛らしい女性に声をかける、所謂ナンパをしているのだ。
最早怒りを超えて溜め息すら出てこない。
彼のナンパに対する心ゆきをこちらにも分けてほしい程だ。
呆れた眼差しで彼を見ているが、本当に自分の存在なんて忘れているかのように女性との話に没頭している。それが少しだけ寂しくなった。
女性に帝人の事を話しているようだったが、会話の内容なんて聞こえなくて。いや、聞きたくなかっただけなのかもしれない。
いつもの事なのだが、何度ナンパに誘われても慣れない。
寂しい、だなんてかっこ悪いかな。なんて考えながら、地面を睨むように小さく俯いた。
その瞬間、

「おい、帝人!大丈夫か?」

まるで大怪我をした人に声をかけるような、正臣の大袈裟な心配の声が聞こえてきた。
帝人は、またからかっているのだろうと溜め息混じりに顔を上げる。
驚いた。
本当に心配そうな眼差しをしているからだ。
正臣が先程まで話していた女性は途中で話を中断されたのであろう、ふてくされたような顔でこちらを伺いながら、ゆっくりと帝人達とは反対の道を進んでいこうとしている。
まさか正臣が心配して、女性より自分を優先してくれるなんて思わなくて。
帝人は慌てて大丈夫だということを伝えれば、正臣は安心したように柔らかい笑みを浮かべた。

「心配するだろ、」

お前が一番大切なんだからよ。
そう、彼がぽつりと自分にしか聞こえない声で囁くものだから。
先ほどまでの気持ちなんて吹っ飛ぶ勢いで消えてゆき、それに比例するかのように自然と笑みがこぼれた。

本当に、



好きだよ、好き





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ナンパ癖な彼と、それに悩む帝人くん。





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