公園の隅にあるベンチに座って一服している時、そいつを見つけた。
そいつは向かい側のベンチで座り、様々な人達を観察している。
小さくニヒルな笑みを浮かべる彼は、キョロキョロと目だけ忙しく動かしている。その姿を見るだけで不快なのだが、今日はなぜだか不快な理由はそれだけではないようだ。
それがなぜだかは分からないが、不快にも関わらず彼から目が全く離せない。静雄は自分でも分からない自分の心境に溜め息をつき、ベンチからゆっくりと腰を上げた。
そして自分の存在に気付かないあいつの元へと進んでいく。
理由は簡単だ。殺してやりたいからだ。そう、殺してやりたいから、だと思う。

「……何してんだ?」
「人間観察…って、何でシズちゃんがいるの?」
声をかけると、そいつの肩が比例するかのように小さく跳ねた。本当に気付いていなかった事に少し驚いたが、平然を装い軽く睨みつけるように見下す。

「お前をぶっ殺したくなった。」

その言葉に臨也は興味の無さそうに、ふーん。とだけ呟けば。こちらを一度も見ようともせず、ひたすらに人間観察を続けている。
面白くない。
このまま殴り殺す事もできたが、そんな気になどならず。また、いつも臨也を見ると感じるイライラとした感情も、微塵に感じなくて。
そのどうにも言えない感情に、溜め息がこぼれた。

そんな静雄に見向きもしない臨也はというと、飽きのこない人間観察に没頭している。
やっぱりね、なんて言い出しそうな笑みを向けるその先には、転んで泣いている可愛らしい子供がいた。それを面白そうに眺めるものだから、不振に感じたのであろうその子の親がこちらを睨み付けている。
そこで漸く分かった。臨也が面白そうにしていたのは、その子の親が予想通りの行動をしたからであると。否、臨也は面白そうだがどこかつまらなそうな顔をしていると言った方が正確かもしれない。
だが、しかし。
本当に、面白くない。

「…ってぇ!」

ぱぁんっ!と派手な音と共に臨也の悲鳴が響いた。
静雄が臨也の両頬を手のひらで叩き、そのままぐいっ!と、こちらに顔を向けさせたのだ。
少し涙が溜まっている瞳にどきりとしたが、そのままの体制で生唾を飲み込む。
あぁ、こいつも痛みを感じるんだな。なんて当たり前の事を感じながら、じっとその瞳を覗いてみる。
そんな静雄に痺れを切らしたのか否か。眉を潜め皮肉を並べ、臨也もまた静雄の瞳を覗いてくる。

「……何、構ってほしかったの?」
「顔面潰して首捻ってやろうと思ったんだよ」
「……それよりさぁ、」

顔、近いんだけど。

ばっ!と気付いたら勢いよく突き飛ばしていた。ベンチごと後ろに倒れた臨也を横目に、ふつふつと頬だけが熱くなっていく。
(あぁ、本当に意味分かんねぇ)



それは恋ってやつの証拠さ





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