好き、大好き、愛してる。 そんな愛を語り合う関係なのに、そんな愛の言葉なんて相手に投げかけた事なんてない。否、そういう関係のようで、そういう関係ではないのだ。 二人は正式に付き合っている訳でもないが、付き合っていないとも言いきれない。二人はそんな関係。 どう説明すればいいのだろうか、そう。例えるならば、犬と猿がじゃれあうようなイメージだ。 でも、そんな言葉に無縁の二人でも、そんな言葉を欲するのは自然の道理で。 ドゴッ! 突然、鉛が地面をめり込むような抉るような、そんな音が響き渡る。 目の前には標識が地面から抜き取られ、あるはずのない場所に逆さになって突き刺さっているではないか。 それを見て、驚くのでも怖がるのでもなく、呆れたように溜め息をつく臨也。だが、一応警戒心を捨ててはいないらしく、右手にはナイフが握られていた。 「臨也ァ…、ぶん殴ってもいいか…?」 「何でそうなるのかなぁ…?だから俺、シズちゃんのこと嫌いだよ。」 「お前はとうとう細胞まで腐っちまったんだな。俺が手前を好きだとかほざくと思ったのかぁ?」 そう、どうしてこのような状況になったかと言うと、全ては臨也の一言から始まったのだ。 突然、臨也が池袋にいる静雄の家へ顔を出してきたかと思えば、どうしてわざわざ来たのか問いただそうとする前に。 愛してるって言ってごらんよ。 と、静雄に投げかけたのだった。 もちろん彼の事は好きだし、彼も自分の事を好きだ。 それをきちんと自覚もしている。 しかし、愛の言葉なんて言えない、否言いたくないのだ。何故だろう、言ったら負けのような気がするのだ。 全く言う気配のない静雄に、臨也はつまらなさそうに肩をすくめる。 そして、いつもの人を見下すような軽い笑みを向け、もういいや飽きちゃった。と言い捨て。右手に持っていたナイフを戻し、くるっと背をむけた。 その背中はどこか寂しそうで、また少し残念そうで。 恋人のようで恋人ではない彼に、少しでも恋人である証を聞きたかった、そんな風に感じた。 (あぁ、ほんっとにウゼェ……。) 「臨也ァ!」 張り裂けんばかりの声で叫ぶと、きょとんとした顔でこちらを振り向いた。あいつがあんな顔をするなんて珍しいな、なんて頭の片隅で感じながら。 めいいっぱいの愛を込めて、叫んだ。 「お前は俺が殺してやるから、覚悟しておけよ!」 愛の形は人それぞれ ------------------------ 何だこの変な関係は…! でもこの二人がお互いに『愛してる』と言い合う姿が想像つかないので、これはこれで良し…だと思います← |