手を伸ばすと届きそうで、それでもそれを掴む事なんて出来る筈もなかった。遠い、遠い、遠い。点滅を繰り返すそれは、落ちる事無く暗い夜を照らしている。
 星に願うつもりは無いが、もし掴めたのならこの手のひらにきちんと収まるのだろうか。弾き出されて飛んで行くのではないのだろうか。もう一度手を伸ばしてみても、やっぱりそれを掴むなんて事はできなかった。
 ぱちぱちと音を立てて燃える焚き火に陰を揺らしながら、そっと眠っているジュード達を見渡した。安心して眠りにつく彼らは、本当に自分の事を信用してくれているのだと、小さく笑みが零れる。そしてその視線は自然にミラへと移動し、そっと見つめた。目を閉じて眠っている姿も美しく、目を逸らす事を忘れてしまいそう。
 ──本当に、本当にマクスウェルなんだよな
 そっと瞼を閉じて空を仰ぎ、目を開けば見える瞬くような星屑。もう一度手を伸ばしてみる。それでもやっぱり届かなくて、その手を下ろそうとすれば、突然とんっ。と、左肩に何かが触れた。

「どうした、眠れないのか?」

 そっと振り向けば、そこには肩を寄せるミラが居た。思わず飛び跳ねる心音に、無理矢理心を落ち着かせようと空を仰ぐ。そんなアルヴィンに釣られるように、ミラも空を仰いだのが分かった。
 アルヴィンはそのまま数回瞬きをして星屑とミラを交互に、目線でなぞっていく。空へと伸ばしていた手で頭を数回掻けば、そっと溜め息一つ。

「おたくさんも、だろ?」
「ふふ、そうだな」

 ゆらゆらと揺らめく影が、静寂な夜の空間を広げていく。そっと地面に付いていた左手に、彼女の右手が覆い被さった。その瞬間、跳ね上がる心臓。余裕の無い自分に段々と嫌気を差しながらも、その手を振り払う事はしなかった。
 すっ、と影が伸びた。彼女へと顔を向けると、視線が固まっていく。先程のアルヴィンのように、左手を空へと伸ばしているミラが目に入ったから。その姿はまるで神々しいものを見ているかのように、じっと彼女に魅とれてしまった。
 この静寂な時間が止まったような感覚。息をする事すら忘れていたのかもしれない。人ではない彼女が人や精霊以上に、いや、この世の全てのもの以上に美しいと思ってしまう。

「遠くて届かないな」
「……本当にな」

 伸ばした手を下ろした彼女の瞳は真っ直ぐに星屑を眺め、小さく口元を緩めた。その姿をずっと見ていると、抱いてはいけない何かに気付きそうで、アルヴィンはそっと目を逸らすように星を眺める。
 それでも触れる手と手は、そのまま離れる事はなかった。




星屑に魅入られて




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甘いのかシリアスなのか、よく分からない話になりました。



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