まるで抉られたような感覚に、頭の奥が麻痺してしまいそう。一歩足を地面に付けて体重を掛ける度に走る痛みに、そっと瞳を閉じた。
 医療ジンテクス。優れた医療技術だが副作用も半端無く、初めは動く事すら出来ない程の痛みで熱を出した事もあった。痛くて痛くて、それでも諦める事はしたくなくて。クルスニクルの槍を壊すには足が使えなければ意味が無いし、歩けなければ他にも支障をきたす。今こうして歩けるようになったのは、ずっとそばで見守ってくれたジュードとレイアのおかげだ。
 レイアと別れて船を発ったと思えば、樽の中で寝息を立てている彼女を見つけて頭を抱えているジュードを横目に、ミラはゆっくりと足を動かした。痛みを我慢できない程ではないが、やはり少し休憩をした方が良さそうだ。
 小波の音を聴きながら船内のベッドに座り、そっと医療ジンテクスを外す。途端に軽くなる下半身。先程まであった感覚という感覚が消えていき、この足が本当に自分のモノなのかさえ疑ってしまう程。先程まで激痛が走っていたが、きちんと床や靴を足の裏で踏んでいるといった感覚が消えて、本当に動かなくなってしまったのだと改めて考えてしまう。
 ――早く、早くあの医療ジンテクスの痛みに慣れないといけないな。
 そっと心の中で呟けば、再び溜め息が零れた。ベッドに座ったまま瞼を閉じれば、浮かんでくるのはアルヴィンの姿。昨日の夜、ジュードの父親と話していた内容は紛れもなく夢ではなく。それでもあまり深読みしすぎるのも良くないので、これからも警戒しておく事にこしたことは無いと結論付け、そっと目を開けた。

「……っ!」

 その瞬間、目と鼻の先に先程まで考えていた相手が居り、目を見開いて小さく方を揺らす。もう少しで鼻と鼻がくっ付いてしまうような距離に、小さく後ろに身を引いた。彼は、くすりと笑みを零し、その距離を離せばミラをそっと見下ろした。一体何がしたかったのかは分からないが、突然の事に心臓まで驚いてしまったような感覚。
 下半身が動かないので、座ったままアルヴィンの瞳を見つめるが、やはり何を考えているのか分からなかった。あのまま目を開けなかったらどうなっていたのか、それ以前に彼はどうしてここに来たのか、そんな疑問が頭の中を駆け巡る。それでもあの近さは尋常では無い、ミラは何故か恥ずかしくなってくるこの感情を隠すように口元を手で隠せば、瞳は真っ直ぐに彼を捉えた。

「い、一体何がしたかったんだ?」
「いや、ちょっと気になっただけさ」
「?」

 再び浮かんでくる疑問。何が気になったのだろうか、ミラはそっと小首を傾げて数回瞬きを繰り返した。ミラの足を見つめる彼の視線は真剣そのもので、その痛々しい程の視線に何故か安心してしまう自分も居て。

「無理はすんなよ」

 頭を掻いて目線を斜め下へと逸らしながらも、そっと呟いた彼の言葉は、開けっ放しの窓から聞こえる小波に掻き消される事無くミラの耳に届いた。この感覚の無い足に、医療ジンテクスを取り付けて生まれる痛みに耐える事は簡単だが、それでも今まで以上に頑張れる、そんな気がした。

「ふふっ、ありがとう」




この痛みさえ安いと思える言葉



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ミラ様が男前すぎて惚れそうです。



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