この感情は何だろう。自分の知らない物が胸の内を焦がしていく、そんな感覚。自分にはやり遂げなければならない使命があるというのに、どうしてか無意識の内に己の視線は一点に集中している。
 道中に現れる魔物との戦闘に疲れ果てた一同は、今はとある港の宿で一息をついているところだった。長旅だった故か疲労も激しく、暖かいベッドがとても安らぐ。次の船の出航は明日なので、今日1日はゆっくりとして、この宿で泊まる事になった。

 先ほどまでの緊張感とは一転して、宿の中で寛ぐ光景にミラは小さく笑みを零した。先程まで一緒に話をしていたジュードは、レイアに連れられて、外へと飛び出して行った。リビングから聞こえるエリーゼとローエンの楽しそうな声に耳を傾けながら、そっと外へと続く扉を眺める。一人で出て行ったアルヴィンの背中を思い浮かべながら、ミラは小さく溜め息を一つ。
 このままずっと、ぼーっとしている訳にもいかないので、立ち竦んでいた足を動かし、部屋へと向けて一歩踏み出した。体がダルい、そして足が重い。ゆっくりと階段を上っている筈なのに、何故か終わりが見えなくて。自分の体なのにきちんと言う事を聞いてくれず、訳の分からない状況に浮かんでくるのは疑問だけ。
 あと数段で辿り着ける二階に安堵し、そっと一つ階段を踏みしめた、そんな時だった。重たい足はきちんと階段を踏みしめておらず、もつれてしまった感覚に冷や汗が出てくるのも束の間。そのまま背中から一階の床へと吸い込まれていくかのように、階段から落ちていく。そう思った、そんな瞬間だった。

「……おっと!」

 とん、と背中を優しく受け止められ、体は床へと落ちる事なくその場に止まる。大きな手のひらが背中を支え、斜めに傾いた体を真っ直ぐに戻してくれた。誰か、なんて直ぐに分かったが、ミラはそっとその人物を見上げれば案の定アルヴィンがそこにおり、ほくそ笑んだ。

「アルヴィンすまない、助かったよ」
「オイオイ、大丈夫かよ? フラフラじゃねぇか」

 私は平気だ、と言いたいがそんな言葉すら出ない程、体が言う事を聞いてくれない。今は早く眠りたい、ベッドへ横になりたい、そんな気分。そのまま一人で部屋へと向かおうと再度足を踏みしめれば、背中から深い溜め息が聞こえてきた。きっとそのまま彼は下へと戻って行くのだと言う事が簡単に想像でき、どういう訳か寂しさが胸の内を叩いてくる。
 早く寝たい筈なのに、本当に人間の体は不思議で仕方がない。そんな事を考えていれば、突然ふわりと体が浮いた。思わず感嘆の声を漏らせば、再び上から溜め息が聞こえてきた。

「疲れてんだろ? 部屋まで連れて行ってやるって」
「え、あ……すまない」

 背中と膝を抱えられ、自然と密着する体に緊張感が走る。勝手に赤くなる頬に、煩く騒ぎ始める胸の鼓動。アルヴィンの顔も若干赤くなっており、何だかずっと見ていられなくて、そっと視線を外した。
 本当に、人間の体は理解出来ない。




この感情の意味を知るのはまだ先




「なぁ、アルヴィン」
「なんだ?」
「これが疲労というものなのか? 素晴らしいが、しんどいな」
「……そうだな」




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初めてのアルミラ文章。
お姫様だっこのシーンが書きたかっただけの文章です(笑)





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