ふと、いつもと違うと思った。剣の太刀筋や踏み込みが甘いし、足元がふらふらと覚束無い。そして何よりも顔色が優れないように感じられた。それは他のメンバー全員が気付かない程微かな変化なのだが、どうしてか気が気でない。先を急ぐ彼女達の背中を眺めながら、アルヴィンはそっと頭を掻いた。
 もう少しで街に着くし、ただの杞憂だろう。頭の中で無理矢理結論付けると、真っ直ぐな瞳で会話を楽しむミラから、そっと視線を外した。幸い魔物との戦闘も殆ど無く、ミラも自分でも変わったような振る舞いをしていない。やはりこれは自分の思い過ごしなのだろうと、瞬きを数回繰り返す。
 それでも何故かその微妙な変化が気になってしまい、外した視線を再び戻す。何度もそれを繰り返し、込み上げてくる溜め息を素直に吐き出した。

「どうした、アルヴィン?元気が無いようだが」

 突然、今まで考えていた本人に話し掛けられ、思わず肩が跳ねた。前を歩いていた筈のミラがいつの間にかアルヴィンの隣を歩いており、先程までミラと話していたジュードはレイア達との話に盛り上がっている。
 瞬き一つしてからミラへと視線を変える。瞳に映る彼女はいつもより瞳が鋭く無く、やはりどこか違うと悟る。それでもそれは確信の無い只の勘に過ぎないので、上手く口にする事が出来なかった。

「ははっ、ミラ様に心配されるとは光栄だねぇ」
「からかうな……っ、お?」

 思わず目を見開いてしまった。反射的に体を支えた腕は、彼女の華奢な体を包み込むように腕を取った。ミラはアルヴィンの体に顔を埋めるようにして、ぐったりとしている。
 体が動かない、と混乱しているミラの前髪を払い、もしかしてとおでこを手のひらで触れば布越しでも分かる程熱かった。ずっと気になっていた、いつもと違う感覚の正体はコレだったのか。自分の体が限界を告げている事すら気付かないなんて何やってんだ、と頭の中で悪態を吐き出しながらも、内心では大丈夫なのかどうかという心配の言葉が渦巻いていた。
 早く皆にも伝えなければと、彼らの背中に待ってくれと訴える。その時だった。限界だと、一つ悲鳴を上げればドミノ倒しのように次々と体のあちこちが悲鳴を上げたのか。ミラは自分の足で支えれなくなり、アルヴィンの体からすり抜けるように崩れていく。
 アルヴィンはそれを阻止すべく、彼女の腰を支えるも時既に遅く。無理な体制を正す事ができず、そのまま地面にずり落ちてしまった。

「……ミラ、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……ん、大丈夫だ」
「ミラ、」
「あー! アルヴィン君、何やってんの!」

 せめて頭だけは地面にぶつけないようにミラの頭と腰を支え、地面に倒れた後そのまま腕を地に付けば、そっと彼女の無傷を確認した。病人に怪我をさせる訳にはいかないからな、なんて事を考えていれば、突然聞こえるレイアの悲痛な叫び。
 そっと顔を上げれば、わなわなと肩を震わせるレイアとエリーゼに、盛大にショックを受けているジュードの姿。ローエンはそんな光景に、青春ですねと微笑んでいた。
 数回瞬きを繰り返し、今の体制を改めて見直せば、漸く自分がミラを押し倒しているような体制だと気付いた。反射的に起き上がれば、数歩後退る。
 ああ、こんな事になるならミラの変化に気付いた時に言えばよかったと、小さく溜め息を零した。




揺らぐこの気持ちはきっと杞憂




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この後、きっと誤解が解けるのに時間が掛かったと思います。
あれ、このオチは前にも書いたような気がすr……こほん。うん、ただの思い過ごし、思い過ごし(笑)




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