どうしたというのだろうか。 人間の生活に慣れていない為、知らない事が山ほどあるミラだが、今までは誰かに教えてもらい何とかこなせていた。しかし、こればかりは本当にどうすれば良いのか分からない。教えてもらうにも、どのように質問したら良いのか分からないのだ。胸の奧が縮まっていくような痛みと、それに伴うくすぐるような感覚に戸惑いを隠せないでいた。 街へ向かう道のりで、襲ってくる魔物達を斬り倒していく。その剣捌きは、四大精霊を失った頃とは比べようにならない程、格段に動きが違うと自分でも理解できる程。無駄な動きが無くなったと言ってしまえば、自分を過剰評価しているように聞こえるが、実際にその表現が正しくて。それはパーティー内の仲間も同じ考えで、それが強い自信にも繋がっている。 目の前の魔物を斬りつければ、そのまま流れるように刀身を翻し、背中の敵に一刀を交える。崩れる魔物の先に、アルヴィンが銃口を一発鳴らせば、まだ息のあった魔物がミラの背中で悲鳴を上げた。 思わず魅とれてしまった。それは一瞬だが、戦いにおいてその一瞬は一生に相応しく。アルヴィンがミラの名前を叫び、ハッと息を呑み込んだ。 ──しまった! 気配を感知して勢いよく振り返れば、反射的に剣で身を守るが踏み込みが甘かった為、そのまま弾き飛ばされてしまった。 「ミ……!」 「ミラ!」 声を荒げるアルヴィンに、ジュードの声が重なった。そしてそれと同時に、地面に叩き付けられる筈の背中を優しく受け止められる。顔を上げれば心配そうに顔を歪めるジュードの姿が目に入り、小さく安堵の溜め息を吐き出した。 先程の敵はローエンの精霊術でとどめを刺したらしく、もう近くに襲ってくるような魔物も目に入らない。ミラはそれを確認すると、もう一度ジュードへと顔を向けた。 「ジュードか……君には助けられてばかりだな」 「ミラ、大丈夫? 怪我は無い?」 「大丈夫だ、気にするな。 ありがとうジュード」 ジュードに礼を言いながらその場に立ち上がれば、彼は照れたような恥ずかしそうな表情で、うん。と、呟いた。そこでふと振り返ればアルヴィンと目が合い、それを逸らすように彼は空を仰ぐ。一瞬だが、こちらを見る彼の表情が苦虫を噛んだように酷く歪んでいた、ような気がする。 その意図が読み取れず、何となく心が沈むような感覚に襲われた。ばたばたと足音を立てて、心配そうに寄ってくるレイアとエリーゼとローエン、そしてティポ。彼女達に大丈夫だという事を告げれば、そっと落とした剣を広い上げて大丈夫だということを証明するように、軽やかに鞘へと戻した。 そう、大丈夫だ。アルヴィンを見る度に起こる胸の高鳴りや、痛みはただの杞憂。気にする事は無い。 数秒間その場で瞑想し、そっと首を横に振る。そんなミラの後ろで、レイアは不思議そうに首を傾げた。かと思えば、何かを察したかのように慌ててミラの右手を掴み、目を泳がせている。 レイアのその行動に首を傾げれば、動揺を隠しきれていない彼女に引っ張られるように他の皆へ背を向ける。彼女の生唾を飲み込む音がリアルに耳に入り、ミラにだけ聞こえるようにそっと小声で呟いた。 「ミラ、もしかして……好きなの?」 「ん? 何のことだ?」 「いや、その……何となくだけど、そうなのかなって」 聞き慣れないその言葉は、ずっと前に読んだ本に書かれていたかもしれない。具体的にどういったものかは分からないが、このもやもやとする気持ちがそうなのだろうか。 そっと胸に手を置けば、小さく小首を傾げる。ミラのその行動にレイアは小さく俯けば、誤魔化すように首を左右に大きく振り笑顔になった。 突然ごめんね、と謝る彼女はどこか儚げで、今にも壊れてしまいそう。レイアがジュードを見る目と、ミラがアルヴィンを見る目は違うようで似ているのかもしれない。でもそれを確信持っては言えないので、先を急ごう。と言う彼女の空元気に甘えてしまった。 「待たせちゃってごめんねー!」 「もう、レイア達どこに行ってたの?」 戻れば、一番最初に聞こえたのはジュードの呆れたような声。それを軽く受け流すように謝るレイアは、本当に彼を上手く使いこなせていると言えば良いのか何と言えば良いのか。 彼女は自分の気持ちをはっきりと理解し、それ故の行動を矛盾無く起こしている。それに比べれば、いくらミラだとしても人間としての経験が浅い故に適わないと言う事か。 ふと、皆と離れた所に立っているアルヴィンへと目を向けた。それは無意識の内に視線が探していたのか否か、再び交わる視線に胸の奥がざわついていく。 何を思ったのか勝手に足が彼の所へと動き、その距離を縮めていった。高鳴る鼓動に上昇する熱。自分の身体なのに別のもののような感覚。 アルヴィンの隣に並ぶように立てば、そっと皆の様子を眺める。彼からはいつもどのように見えていたのだろうか、そんな事を考えながらも手のひらは彼を求めるかのように、そっと手を取ろうとした。 しかしあと数センチというところで距離は縮まらなくなり、代わりにいつの間にか口から言葉が出てきていた。 「アルヴィン、私を抱き締めてくれないか?」 「え? い、いきなりどうしたんだよ?」 自分でも驚いた。どうしてこんな言葉を口にしたのか分からず、思わず数秒間息をするのを忘れていた。 数回瞬きを繰り返し、そっと腕を組んで小さく唸る。そして、ぱっと切り替わるように腰に手を当てて。 「……いや、なんでもない。 そうだな、きっとおかしかったんだ」 「オイオイ、本当に大丈夫かよ?」 「ああ、大丈夫だ。 突然すまなかったな」 彼の手を握ろうとした手のひらをそっと前に持っていけば、止めていた足を動かして彼へと背を向けた。 分からないのだ、自分の気持ちも彼の思考も。すぐ近くにいるというのに、全く理解が出来ない。触れる事を恐れている、とでも言うのだろうか。だから自分から触れようとできないのか。 もしもレイアの言うようにこれが恋なのだとしたら、本当に恋というものは厄介なものだな。と、そっと空を仰いだ。 手を伸ばせば触れれるのに 「勘弁してくれよ、ほんと」 ミラの背中を眺めながら、赤くなる頬を誤魔化すように頭を掻くアルヴィンの言葉は、誰の耳にも届く事無く空気中に消えていく。自覚したくは無かったが、この気持ちはきっと本物であろう。 彼女の背中に訴えかけるように、そっと二文字の言葉を呟いた。 -------------------------------------------------- 素敵な企画サイト『Ti amo!』様に捧げます。 アルミラ要素が薄くなってしまいましたが一応、レイ→ジュ→ミラ→(←)アルのイメージで書きました! タイトルと内容が少しズレてしまいましたが、許してやってください。 このような素敵な企画に参加する事ができ、幸せです^^ ありがとうございました。 |