ジュードがミラを好きだという事は前々から分かっていた、あいつは分かり易いから。ミラがジュードの事をどのような感情で見ているのかは分からないが、それでもいつも隣に居て信頼し合える二人が羨ましくもあり、妬ましかったのかもしれない。
 散々裏切って、彼女を見殺しにして。昔から大好きだった母親も死んで、何もなくなって、皆を傷付けて。そんな自分を、ミラは抱き付いても良いと言った。彼女が生きていて、自分の中の何かが救われた気がしたが、例え嬉しかったとしてもこんな自分が彼女を抱き締める資格なんて無い。
 そう、何もかも無いんだ。

 部屋に木霊する溜め息の数が、また一つ一つと増えていく。久し振りに見た故郷は前よりも緑が減っていたが、それでももう一度だけ母親に見せてやりたかった。
 そっと窓の外を眺めれば、故郷に帰れて嬉しい筈なのに溜め息しか出てこない。もしもミラを見殺しにした時、断界殻が消えて、この街に帰って来れたとしたら、その時自分は素直に喜べたのだろうか。
 自分でも分からない感情が、ぐるぐると脳内を駆け巡っていく。今までの自分の選択が正しかったのか否か、そんな事すら分からなくて。
 ──俺は、これで良かったのか?
 震える手で、自分の頭をぐしゃぐしゃに掻き乱し、そっと溜め息を吐き出す。この手で握っていた銃を彼女に向けた時の引き金の感触が、まだ鮮明に覚えている。裏切る事など昔からずっと続けていた筈なのに、どうしても抜け出せぬ泥沼に嵌ってしまったかのような感覚が、まるで胸を抉るようだ。
 カチカチと進む針の音だけが室内に木霊する。この部屋に来てから何時間経過したのだろうか、否。実際はそんなにかかってなどいない、数字を順番になぞる針が規則的な音を立てて、一つ、また一つと進んでいく。
 頭の中で繰り返される後悔と自己嫌悪に、部屋の扉が開いた事に気付かなかった。

「随分な落ち込みようだな、私が生きていて不満か?」

 頭の上に降ってきた声に、一瞬耳を疑った。そっと顔を上げれば、それはずっと頭の中で支配していた彼女、ミラが仁王立ちで立ち竦んでいた。
 思わず声を上げそうになりながらも、それを飲み込めば、彼女の言葉にだんだんと頭に血が上っていく。気付いた時には彼女の腕を引き、そのまま床に押し倒していた。
 瞳と瞳を一寸も離さず、彼女の両手首を掴む腕の力だけが強くなっていく。ミラはそんなアルヴィンに驚いた目で見ていたのだが、だんだんとそれは柔らかなものになっていき。その強くも優しい瞳を見ているのが辛くなってくる。
 アルヴィンはそっと瞼を閉じて、彼女の手首を掴む手の力を抜いていった。

「……そんなわけ無い、だろ」
「ふむ、なら良いんだ」

 漸く絞り出した声で呟けば、ミラは満足そうに頷く。そんな彼女の腕をそっと離し、上半身を起こそうと体を動かした。その時だった、突然ミラに腕を掴まれたのは。
 彼女の突然の行動に唖然としていれば、そのまま腕を引かれて、うわっ。という間の抜けた声と共に、顔が彼女の胸に埋まった。柔らかく弾力のあるそれに、一気に頬が赤く染まっていく。それと同時に心臓の音が煩くなり、戸惑いを隠せない。
 そんなアルヴィンの心境を知ってか知らずか、ミラは優しい手つきでその頭をそっと撫でた。

「アルヴィン、頑張ったな」

 ミラのその一言に、何も言う事ができなくて。熱くなる目頭を抑えるに、精一杯だった。




救われたのは紛れもない自分自身でした




--------------------------------------------------
ミラが、26歳児をあやすお母さんみたいになりました(笑)





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -