(月明かりに全てを隠してのエリーゼ視点) 窓から零れる淡い月明かりに、そっと目を覚ました。数回瞬きを繰り返し、布団をそっと被り直す。早く寝なければ明日の戦闘に支障をきたすかもしれないので、寝なければならない事は分かっているが、それでも何となく胸の内がざわついていて。 ──眠たいけど寝たくないなんて、子供だよね 怖い夢を見たわけではない、寝心地が良くないわけでもない。青く輝く月明かりに魅了されたからか、ずっとそれを眺めていたくて。 それでもまだまだ寝たりない体は正直で、重たい瞼がウトウトと開閉を繰り返していく。エリーゼは、そっとティポを抱き締めて顔を埋めるようにして目を閉じた。その時だった。ゆっくりと音を立てて扉が開いたのは。 その瞬間、一気に目が冴えてしまい、そっとティポを抱き締める腕の力を強くする。エリーゼは反射的に寝たふりをして、強く瞳を閉じた。 ぎしぎしと軋む床の音がリアルに脳内に響き、心音が騒がしく鳴り響き始める。誰が来たのだろうか、泥棒やアルクノアだったらどうすれば良いのだろうか。緊張が走り、手に汗が滲んでいくのが分かる。 それでも侵入者が本当にアルクノアだとしたらミラが、友達が危ない。エリーゼは友達を守りたい、ただ純粋にそう願い、ゆっくりと布団の隙間から目を出して侵入者を確認した。 思わず息を飲んでしまった。眠っているミラを見下ろすように見ていたのは、アルヴィンだったから。 ──まさか、また裏切るつもりですか! そっとタイミングを計って起き上がろうと、彼をきつく睨み付けた。その時だった、彼が口を開けたのは。 「って、何してんだ俺は」 何をしているのか、ここからでは良く分からなかった。それでも時間だけはゆっくりと進んで、彼が優しくミラの頬を撫でる姿が脳裏に焼き付いていく。 そして二人の距離がゆっくりと縮まっていき、それが重なった。何故か目を逸らす事ができなくて、胸の内が締め付けられる感覚。裏切るのではないかという疑惑なんて抱く余裕も今は無くて、ただただ落ちていくように息をするのを忘れていた。 バタンと響く音に、ふと息を吸う。上半身を起こせば、彼が出て行った扉を数秒間眺めて、そっとベッドから降りた。 追いかけて何かを言うつもりでもないが、どうしてか追いかけたかったのだ。ぱたぱたと小さな足音を立てて、ゆっくりとドアノブを回す。扉を開ければやはりもう居なくて、先程の追いかける勢いも失せていき、扉を閉めようとして止めた。 扉の横で、顔を抑えて溜め息を吐き出すアルヴィンが目に入ったのだ。エリーゼは口を開いて、少し躊躇う。彼の口から聞きたくない言葉を聞いてしまったらどうしよう、なんて。そんな可笑しな不安を胸に仕舞い、そっと口を開いた。 「何、してるんですか?」 「うわっ! エリーゼ!?」 「ミラ、まだ寝てますよ?」 どきどきと止まらない心音に、ティポを抱き締めようと思ったが、ベッドに置いてきた事を思い出し、代わりに扉へと手を置いた。 アルヴィンはエリーゼの問いに誤魔化すように天井を仰げば、そっとエリーゼの頭に手を乗せて二回程、軽く叩く。その行動に、本当の言葉はきっと聞けないのだと悟った。 「いや、あれだよ……と、友達の証ってやつだ」 「友達……キス……」 「誰にも言うなよ」 「アルヴィンの言う事なんて聞かないです」 嘘、なんだと分かっている。本当は友達以上の感情を抱いているのだと。まだ子供だから話してくれないのだろうか、しかし本当の事を言ってくれなくて安心している自分も居て。 きっと彼なりの気遣いなのだと思う。 先程問いた、何をしていたかだなんて本当は分かってた。彼の気持ちもきっと、それが答えなのだろう。そして自分の気持ちも。 それでも今は何も知らない子供のままで、いさせて欲しいから。 「……でも、これだけは内緒にしてあげます」 「ありがとな」 さよならを告げたのは、自分の気持ち -------------------------------------------------- エリ→アル→ミラ 報われないと分かっている恋だけど、すぐに棄てるなんて出来ないから、恋というものは厄介なんでしょうね。 |